東方無風伝 1
「ま、なにはともあれ座ったらどうだ?立ちっぱなしってのもなんだしな」
「悪いな」
「私は基本、人間には親切だぜ?多分」
「不確定かよ」
ははっと笑いを零しながら、魔女が引いてくれた席に腰を下ろす。
「おや、そう言えばまだ君の名前を知らなかったな」
「おや、そう言えばまだそっちの名前を知らなかったぜ」
そう俺の言葉を真似するように言う魔女。
はいはい、自分から自己紹介しろと言うことですね。
「俺は風間と言う人間だ」
「風間だな。私は霧雨魔理沙。魔理沙と呼んでくれ」
魔女魔理沙、ね。その名前と容姿、確かに覚えた。
「あぁ、そうだ魔理沙」
「ん?どうかしたのか風間」
と優雅に紅茶に口付け言う魔理沙。
「感謝する。有難う」
「……へ?」
目を丸くして言う魔理沙。本当に突然、何故感謝されるか解っていないようだ。
「魔理沙は、倒れていた俺を助けてくれただろう。だからだ」
「あ、あ~あれか。全く、突然言うもんだから何かと思った
ぜ」
「悪いな、わざとだ」
「一杯食わされたぜ」
得意げに笑いながら、またクッキーを一枚齧る。
「どうぞ、風間」
「有難う、アリス」
会話に入れず、少し寂しそうにしていたアリスが、漸く入り込むタイミングを見つけたようで俺に紅茶を渡してくる。
すまんアリス。気付いてはいた。
「これは、からくり人形か?」
そうアリスに尋ねる。というのも、俺にカップを渡してきたのは、掌に乗れそうな人形だったから。
「違うわよ。自分の意志では動くことのない、ただのお人形よ」
「ならば、何故」
「アリスが操ってるだけだぜ」
俺の言葉を遮って言う魔理沙。
操っている?糸で操っていると言うことだろうか。だが、目を凝らして見ても糸は見えない。
顔を近づけてみても、変わらない。
「いって!」
顔を近づけたところ、突如人形が眼潰しをしてきた。人形だからそれほど痛くはない。と言っても目は人間の急所。十分痛いわけだが。
「このやろ」
と人差し指で人形を弾く。
「ちょっと、乱暴はよしてよ」
「おっと、すまないな」
「風間は上海に嫌われているみたいだな」
ええい、笑いながら言うんじゃない魔理沙。人形に嫌われるなんて、なんだか不憫になってくるではないか。