東方無風伝 1
「まぁ、どうでもいいことか」
紫なんて名前、探せば見つかる名前だろう。深く考えることではない。
「何か言ったか、風間?」
「いや何も」
「そうか」と視線をテーブルの上のクラッカーに目を戻して言う魔理沙。
「そう言えば、風間は何処から来たんだ?もし良かったら送って行くぜ」
そうクラッカーにジャムをこれでもかと塗りたくりながら言う魔理沙。
「それは有り難い。だが、何で?」
「そいつで、だぜ」
彼女が指さす先には一本の箒。
「空を飛んでってことよ」
意味が解らず首を捻っていれ
ば、アリスが教えてくれた。
そう言えば魔理沙は魔女だったな。チルノ達同様空を飛ぶのは容易いことか。
「で、風間は何処から来たんだ?」
一緒に行くことはもう決まっているのかよ。
さてとまぁ、どうしたものか。
人里と言えれば良いのだが、その人里は果たして安全なのか。
俺は余所者(よそもの)。受け入れてもらえるかどうかだ。
「そうだな……空から来た」
「空?天界か?風間は天人だったのか」
「はい?」
「あれ、違うのか?」
天界とはまた予想を斜め上を行くな。なんとまぁ幻想郷には天界まであるのか。
「ああもう、なんだっていうんだよ。はっきり言ってくれないと解らないぜ」
苛立ったように言う魔理沙。
「異世界から、来たんだよ。こっちに来た途端、空から落とされたんだよ」
「ああ、なんだそんなことか」
そんなこと、だと?
「俺同様、異世界から来るやつは多いのか」
「そうだぜ。もともとは少ない筈だけど、最近は異常と言えるほどにしょっちゅうだぜ」
はぁー、と溜め息。
なんとまぁそんなことが。いや、それは考えても良かったことだろう。
元々俺のいた世界には行方不明者が多かった。その消えた人々が此方の世界に来ていても不思議ではない。なにせ、俺だってそうなのだから。
「異世界から来た人々は、この世界でどうしているんだ?」
「ん?ああ、風間も外来人みたいだし気になるか。大抵は幻想郷に住み着くな。人里や、神社や、紅魔館や、白玉楼や、永遠
亭やその他やら」
「妖怪に食べられたり、外の世界に帰ったりするわね」
なんとまぁ、驚いたとしか言えないな。
まさか、俺の知らないところで異世界がこんなにまで密接した関係だったとは。
世界は、存外広いものだったのだな。長生きしてきて本当に良かったと思えるよ。