東方無風伝 1
青い空の中を飛翔する黒い点。それは幻想郷の東を目指していた。
「とーちゃく!」
それは、魔女、霧雨魔理沙と風間の二人だった。
其処は、雪が降り積もり白く色変わりした神社だった。
魔理沙は陽気に、何事もなかったように地面に着地するが、それと同時にぐしゃりと何かが崩れる音。
「生きてるかー」
「……」
「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「……」
魔理沙の問い掛けには返事が出来ない。それ程に心身共に疲弊しきっているからだ。
震える両手を開いて見れば、力の入れ過ぎか真っ白になっている。恐れく、今の俺の顔も同じ色をしているだろう。
魔理沙の奴め、俺が怯えるのを面白がってとんでもない曲芸飛行をしやがって。
お陰で此方は何度目になるか解らない死ぬ思いをしたよ。
「うあー」だらしない声を上げつつ、仰向けに寝転がる。
雪かきをした後のようで、少しだけ残った雪がひんやりと冷たく心地よく感じる。
全く、此処にくるまではもう雪の冷たさは二度と味わいたくないと思っていたのに、此処に来てそれが気持よく感じるとは。
状況一つでこうにも変わるものなんだな。
「さて、と。霊夢―、いるかー」
社の前で呼び掛ける魔理沙。だが、その呼び掛けに返事は無かった。
「そう言えば此処は神社か。霊夢と言うのは、巫子か何かか?」
「鋭いな。その通り巫子さんだぜ」
成る程、だから魔理沙とアリスは『霊夢』ことを紅白と言ったわけね。確かに巫子の装束は紅白の二色だからなぁ。
「お、魔理沙か。霊夢は居ないよ~」
随分と間延びした第三者の声が響いた。
見てみれば、其処にはまだ幼い少女が居た。
手には瓢箪を、その手首にはアクセサリーのつもりなのだろうか、その容姿に似合わない無骨な鎖がぶら下がっていた。
だが、幾つかの少女の特徴の中で、群を抜いて目立っているものが有った。
それは、頭の両脇から伸びる両極端な角。
「萃香か。霊夢は何処言った?」
「何処か飛んで行ったよ。宝船の財宝を独り占めするんだとか言って」
「あー、霊夢に行かれたか。仕方がない、今回の異変は霊夢に譲るとするか」
霊夢は財宝を求めて何処か言ってしまったようで、今は居ないらしい。
魔理沙曰く、霊夢はがめつい人間だそうで。
そんな人間が巫子やってて良いのか?