東方無風伝 1
「あったかいな」
「これが有るから、何時も此処に来ちまうぜ」
「これぞ冬の醍醐味……」
「あんたらねぇ……」
炬燵(こたつ)の温もりを感じる俺、蜜柑の皮を剥く魔理沙、眠そうな萃香、呆れ顔の霊夢の順にそう言った。
「そう言う霊夢とて、炬燵からはなかなか出られないものだろう?」
「まぁ、そうけどねえ」
「うえ、なんだこの蜜柑、すっぱいだけだぜ」
「文句言うなら食べなくて良いのよ」
「だが断るぜ。炬燵に蜜柑は冬の醍醐味。例え蜜柑どんなにすっぱくても外すことは出来ないものだぜ」
「まぁ、そうだけどねえ」
と先程と同じような適当な言葉で同意する霊夢。そんな霊夢は、魔理沙に触発されたのか蜜柑の皮を剥き始めた。
「なんだ霊夢、妙にやる気が無いな」
「異変解決に疲れたのか?」
「そんなところかしらねぇ。まだ早いけど、もう寝ちゃおうかしら」
「そんな霊夢に!」
突然、先程までくたりと眠そうにしていた萃香が、ばん!と卓を叩く。
「五月蠅いわねえ、何よ萃香」
「これでも一杯、どうよ」
萃香が持ちだしたのは、先程も持っていた瓢箪。
「……えー」
乗り気では無いようで、嫌そうな声を上げる霊夢。
「まぁいいじゃないか霊夢。風間の幻想入りを祝うっつーことで、呑もうぜ」
「あんた達が呑みたいだけでしょうー」
「風間はどうだ、呑みたいだろ?」
「まず、中身はなんだ」
「酒」と魔理沙と萃香に、同時に一言だけで返される。
「お前ら未成年だろう」
「外来人はよくそんなことを言うけど、幻想郷にはそんなものは無いぜ」
「ほれ」と萃香が酒を注いだ湯呑み。中身は透明で、一見する
と水のように思える。
「あったまるぜ」
「冷たいのはもうこりごりだが、その逆のトラウマを作るのも嫌だぞ」
「あんたも男なんだから、言い訳なしでさっさと呑みなさいよ」
「と霊夢も言ってるし、さあさあ」
「さあさあ」
「しつこい。何も呑まんとは言ってないだろう」
そう言ってから、酒を仰ぐように口に運ぶ。
滑らかに入り込み、ひやりとした冷たい感覚がした思えば、一転して苦く辛く熱くなる。
「げほっげほっ!」
「お、風間はもしや初めての酒だったかい?」
萃香の言うとおり、酒を口にするのはこれが初めて。
「なら、酒の味を思い知らせてやるぜ」
止めてくれ。真摯に、止めてくれ。