東方無風伝 1
「……んが」
一体いつの間にか眠ってしまっていたのか、眠りから突然目が覚める。
涎を拭きながら起き上れば、目に着くのは辺りの惨状。
周りにはごろごろと酒瓶が転がっており、大口開けて鼾(いびき)をかく萃香、酒瓶を抱き眠る魔理沙。どうやら、昨日は魔理沙達に酒を呑まされ、そのまま炬燵の中で眠ってしまったようだ。
……いかんな、昨日のことをよく思い出そうとするが、どうにも思いだせない。自分が何かやらかしたのではないかと不安になってくる。
「……まぁ、覚えてないわけだし」
気にしたって、どうにかなるものではないだろう。昨夜のことは、覚えてなくても、忘れよう。
「あら、起きたのね」
「おや霊夢、早起きだな。それとも、俺達が寝坊介だったかな」
「両方よ。そもそも、あんたが私の代わりに魔理沙達の玩具にされていたし、お陰で私は自分のペースで呑めたし、あんた達ほど酔ってないのよ」
「そうか、そいつは羨ましい限りだなっと」
そんな言葉とともに、立ち上がろうとするが同時に激しい頭痛が襲い、立ち上がること叶わずまた座り込んでしまう。
「いってぇ……」
「二日酔いね、待ってなさい、今水を持ってくるわ」「すまない、助かるよ」
そう言って部屋を出て言った霊夢を見送る。
……さて、どうするか。
霊夢が水を持ってくるまでは一分と掛らないだろうが、ちょいと暇になる。
辺りを見渡してみれば、目に着いたのは眠る萃香。
「んえー」
「や、柔らかい……」
「何してんのよ」
「おお霊夢、柔らかい、柔らかいぞ」
「まあ、触りたくなるのも解るけどねえ」
むにむにと弄るのは萃香の頬。やはり幼女の頬と言うのはとてつもなく柔らかく、人を魅了するものがある。
「んえー」
「ほら、萃香が嫌がってるじゃない」
霊夢にそう言われ渋々とその手を離す。
「ほら、水」
「有難う」
霊夢から水を渡され、それに口をつける。
ただの水なのに、そのひんやりとした感覚にのどが洗われ、それが凄く旨く感じる。
ふう、と一息吐く。
「あ、そうだ霊夢」
「なによ」
「昨日の話だが」
「昨日の?」
「俺は、幻想郷に残るよ」
「そう」と短く返された。
「帰りたくなったら、何時でも言いなさい。何時でも帰れるから」
「その時がきたら、よろしく頼む」
霊夢にそう伝える。だが、それは言葉だけ。
俺は、あの世界に戻るつもりなんて無いから。