東方無風伝 1
「あんた達外の世界の非常識は簡単に言うと、魔法や妖術と言ったものね。例えば、こんなもの」
霊夢はそう言うと、一枚の札を二本の指で挟み持つ。すると、突然音もなく札は燃え上がり、紅い火の玉となる。
「後は、妖怪連中ね」
「妖怪?」
「外の世界では、さっきも言ったように吸血鬼やらが居なくなって、代わりに幻想郷に住まうようになったわ。じゃあ、その吸血鬼の主な食料は?」
「人間の、生血。まさか」
「そう言うことよ。人間はあくまでも妖怪の食糧なのよ」
それじゃあ、あのチルノ達は、実は妖怪で、俺を喰う為に襲ったと?
……今改めて、九死に一生を得たと実感するぜ。
「だからこそ、私みたいな妖怪退治専門家がいるのよ」
「霊夢が?」
「私は博霊の巫子。代々そうやって来たのよ。て言っても、別に私じゃなくても魔理沙なんかが出しゃばって妖怪退治することも有るんだけどね」
「危ないだろうに、よくやるな」
「妖怪は、人を襲い、田畑を荒らし、人間を不幸のどん底に叩き落とす。畏怖されるべき存在よ。だから、私は人間を守るために戦う。命を賭してもよ」
霊夢は、思いのほかずつと強い人間のようだ。そのだらけた態度とは裏腹に、強い覚悟を持ち、人間の為に戦う。見直したよ。
「て言うのが一世代前の考え方」
「……はい?」
「今や妖怪のする悪さなんて、あんたみたいな神隠しが関の山。悪戯程度の悪さしかしなくなったわ」
「……」数瞬前の感慨を返せこの野郎。
「それでも妖怪は十分に強い。人間じゃ敵わない。だから、人間と妖怪の差を埋める決闘がこの幻想郷には有るのよ」
「差を埋める決闘?ハンデが有ると言うことか」
「ハンデなんか必要ないわ。幻想郷独自の決闘、それが弾幕ごっこよ」
「弾幕?」
「そう、弾幕ごっこ。この世で最も美しく、最も単純な遊びよ」
霊夢は言う。最もポピュラーで、最も面白い遊びだと。
「ルールは簡単」
ぴしっと、一本だけ立てたその指先を俺に向けて言う。
「美しくあれ。それだけよ」
それが、幻想郷で最も単純で最も美しい遊びのたった一つのルールだった。