東方無風伝 1
「チルノ、ちょっと来なさい」
「なぁに、レティ」
帽子を被った少女は、そうチルノを呼び出した。
あの少女が『レティ』ならば、残る緑色の少女が『大ちゃん』になわけか。
レティはチルノを自分の隣に呼び寄せると、何やら耳打ちを始めた。
それを聞くチルノの表情は初めは疑問の、終わりには輝きに溢れた笑顔となっていた。レティとやらは何を言ったのやら。
「どーしたの、チルノちゃん?」
大ちゃんとやらはチルノに聞く。
聞かれたチルノは自信満々に答えを返す。
「あたいが最強だって証明するのさ!」
「え」
その言葉を聞いた瞬間大ちゃんの表情が固まった。
最強の証明?今何故どうして行う。それ以前に何の最強なんだチルノは。
「其処の人間!」
「あ?」
「あたいのテリトリーに入ったからにはただじゃすまさないよ!」
今までの態度が一変して、チルノはそう言った。
なんだって言うんだ。兎にも角にもチルノが何をしようと言うのか定かではない限り下手に動くことは出来ない。
まぁ、見た目はただの子供。どうせ遊びの話だろう。じゃんけんとか。
「へくしっ!」
そんなくしゃみが出る。 やはり寒い。何故かは知らないが俺が着ているものは黒い着物の一枚だけ。履物は草履ときている。
そんな服装で冬の真っただ中を出歩くなんて、凍死しても文句は言えない。おまけに水を被ったようにぐっしょりと濡れてるときている。
死んでもおかしくない。
身をぶるっと震わし身体が寒いと脳に訴えかけてくる。
くしっともう一回くしゃみをしてから、そう言えばチルノ達はどうしたと顔を上げてみれば、其処には不可解な景色が有った。
「なんじゃこりゃ」
俺の視界には両腕を天に掲げるチルノ。その周囲には幾数十本と言う数の氷柱が浮いていた。その切っ先は全て俺に向けられていた。
チルノがその両腕を振り下ろす。
それと同時に、数々の氷柱は弾丸が如く俺に向かって降り注ぐ。
「待て待て待て待て!」
そんな叫びは意味をなさない。
自己防衛の本能からか、俺は間一髪のところで身体を反らし避けていた。
だが、それは感覚だけで動いたに過ぎない。次もまた避けきれる、なんてことはない。
チルノを見れば再び両腕を上げて氷柱を作り出している。
俺のやるべきことはただ一つ。
「逃げた!」
「追うわよ、チルノ、大ちゃん!」
こうするしかなかろうが。