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八面六臂臨也と小学天

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乾いた拳銃の音が数度響く。八面はため息を吐くと、顔に付いた返り血を拭いながら拳銃をいつもの場所へとしまう。
見渡す限りに広がる屍の山に、八面は感情を表すことなくその屋敷を後にする。
外に出ると、今まで一度も止むことのない雨が曇天の空から降り続いていた。
その雨の中を八面は傘も差さず歩き出す。この雨がきっと八面にこびり付いた硝煙と血を洗い流してくれるであろう。
いつものように仕事帰り雇い主に電話をし、笑いたくもないのに笑みを貼り付けて決まった言葉を吐く。

「ありがとうございます!またの御贔屓に!」

ぱた、と携帯を閉じると八面は隠れアジトが近くに幾つもあるにもかかわらず、己のプライベートルームに足を向けた。


マンションに付くと、八面は鍵穴に鍵を指して扉を開く。その瞬間、八面は眉間に皺を寄せいた。
玄関の所にちまっとした子供が座っていたのだ。しかも薄着で。

「あーっうあー!」

子供はキラキラとした瞳で笑顔を八面に向けながら精一杯腕を伸ばす。
こんな雨の降る夜。しかも寒い玄関に薄着で待っているなんて。八面の頬がぴくぴく震える。
こうしてはいられないと急いで口を脱ぎ捨ててその子供を抱き上げようとしたが、さしだした手が子供に触れる前に止まる。
そしてその子供を横切り、バスルームへと向かった。数分後、上半身の衣服を全て脱ぎ去って肩からバスタオルをかけた八面が出てくる。

(あー俺って何やってるんだろう)

そう思いながら子供が差し出してくる手を取り、その胸に抱きしめてリビングへと向かう。
ペタペタと素肌に触ってくる子供の手が温かくて、八面は妙な気分に陥る。くすぐったいような照れくさいような、感じたこととのない感覚。
初めての感覚に戸惑いながらそっと子供を抱きしめたまま、ソファへと腰掛けた。

「どうしてお前あんな所にいたんだよ」

「?」

「あんな寒いところにそんな寒そうな格好で馬鹿なの?馬鹿でしょ。風邪引きたいわけ?」

「?」

いくら八面が話しかけても子供は緑の瞳を煌めかせて見つめてくるだけ。八面はため息を吐いて、子供をソファの上に置き立ち上がる。
頭を掻きながら服を取りに行くため自室へと向かった。
服に腕を通しながら、らしくないと考える。らしくないのにどういうわけか自然と身体が動いてしまう。

(意味わかんない・・・)

ため息をまた吐きながらリビングに出ると、言葉にもならない悲鳴が八面の口から叫ばれた。

「ちょっうわっぁぁっ!」

八面は己が持つ運動能力と瞬発力を使い、瞬時にソファの上から落ちそうになっていた子供をキャッチした。
子供は一瞬呆けた顔をした後、きゃっきゃと楽しそうに八面に笑いかける。その笑顔に八面は苦笑いを零した。

「この俺の心臓を縮めるなんて、君大物になるよ・・・」

まだドクドクと早鐘のように脈打つ心臓を持ったまま、八面は子供を抱きしめてソファへと座った。
子供は八面の胸に頭を預けて静かにしている。時々八面が子供を見ると、子供も八面を見る。
綺麗で穢れを知らない緑の瞳。その瞳に見つめられていると、不思議と心が落ち着いてくる。本当に、不思議と。

「どうしてだろうねぇ・・・」

八面にも理解できない自分の思考をもてあましながら、八面は子供の頭を数度撫でる。柔らかい質の髪に無意識のうちに頬を綻ばせていた。

(って!なんで俺笑ってるの・・・?)

本当に自分の気持ちが分らない、と唸っているとき携帯のバイブ音が肌越しに感じた。八面は子供を片手に、もう片方の手でジーパンのポケットから携帯を取りだした。
ディスプレイに表示された名前に眉を潜めながら、通話ボタンを押す。

『もしも~し。今回もお疲れ様八面』

「・・・ふん」

電話の相手、臨也に八面は鼻を鳴らし不機嫌を隠さない。そんな八面など気にも止めずに臨也はぺらぺらと話し出していく。

『君は毎度毎度仕事が早くて助かるよ~お得意様もご満悦!まぁ、そのえげつないやり方は好きじゃないんだけどねぇ』

「お前の好みなんて関係無いだろ」

『確かに。ないねぇ~。で次の仕事なんだけど・・・』

急に入る仕事の話に八面は頭の中にある白紙に情報を書き込んでいく。物理的に書き込むことはこの仕事において命取り。

「了解。もう良いだろう切るぞ」

そろそろここで切らなければ、くだらない惚気話に付き合わされかねないので八面はそうそうに切ろうとする。

『あ、そうそう君さ、子供拾ったんだって?』

突然の臨也の言葉にぴくっと八面の眉が上がる。携帯を持つ手に力がこもった。話す声も数段低いものとなる。

「誰から聞いた」

『誰?ふふ、この俺を誰だと思っているの?折原臨也だよ?』

「まったく腹立たしい」

『いいの?そんな子供を拾って』

「何が言いたい」

『そういう弱みを持って良いのかって聞いているんだよ。絶対にそれは君の弱みになって君を破滅へと導くよ』

「大きなお世話だ。それに、子供と言ったらお前もそうだろう?」

八面はふっ、と鼻で嗤うと下卑た笑みを浮かべた。臨也がため息を吐くのが携帯越しでも伝わる。

『そう。持っているから言っているだ。大変だよ、大切な存在を守のは』

しみじみ言う臨也の言葉に八面は訝しむかのような顔を浮かべ、携帯で話しているであろう臨也の顔を思い浮かべた。

「お前からそんな台詞が聞けるとは思わなかった」

『俺もねぇ、君に言う必要とか無いと思ったんだけど・・・その子供が帝人君に見えて、ね。
 その子供にとって君以外に頼る存在がいないんだ・・・大事におしよ』

「・・・」

臨也の最後の言葉に、八面は腕の中で今まで大人しいと思ったら寝息を立てている子供に視線を向ける。

「忠告は、甘んじて聞いてやる」

『あ、そう。・・・まぁ、がんばれ』

「あぁ」

そう短く言い切ると八面は携帯を閉じた。そしてその携帯をまたポケットに突っ込んで、眠っている子供を起こさないようにそっと寝室へと向かった。
柔らかいベッドにゆっくりと置いてやり、その眠っている子供の頭を撫でた。

「安心しきった顔してるね・・・」

ここまで無防備な顔をされたことなど今までない。八面はその子供を抱きしめるようにして自分もベッドに横たわった。

「そう言えばお前にまだ名前を付けてなかったよなぁ・・・」

だんだんと重たくなってくる瞼に逆らいながら、八面は子供の頬をつつく。ぷにぷにとしている頬は触っていて気持ちがよい。

「何がいい?・・・なんて呼ばれたい?」

眠っている子供に何を聞いても、もともと話せる子でもないので聞いたところで無駄なのは分っているのだが、それでも話しかけてしまう。

「そうだ・・・学天、なんてどう?」

ふと思い浮かんだ名前。その名前を告げた瞬間、偶然だろうが子供が笑った。八面は瞳を見開いてすぐに笑みを浮かべた。

「気に入った?そう・・・それは良かった・・・」

八面は静かに学天、学天、と呟きながら眠っている子供を起こさないように抱きしめて、落ちてくる瞼に逆らうことなくその目を閉じた。

「おやすみ、学天・・・」