二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

八面六臂臨也と小学天

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

ホットケーキ




キッチンに立つ八面は初めて作る物に四苦八苦しながら、何とか焼く肯定までにこぎ着けた。
ただ、先程まで慌てていたため焼くだけの作業になると今まで気が付かなかったことに気づく。
本来の八面ならあり得ないこと。けれど、今回は本当に必死で分らなかったのだ。
八面はため息を吐きながら、背中越しに伝わってくる熱い視線に戸惑いを隠しきれない。
その視線に耐えられなくなり、八面は肩越しから後ろに視線を向けると、学天がじぃっとまっすぐ見つめてきている。
八面はまたため息を吐くと、頼むからと呟いた。

「頼むから・・・そんなに見つめるなよ」

「?」

学天は八面の言葉に小首を傾げてずっと八面を見つめてくる。その碧の瞳に八面は肩を落とした。

「分った・・・分ったから・・・作ってるから・・・」

八面は落とした肩をそのまま、ネットに書いてあった通り黄色い生地の横に気泡が沢山開いてきたらフライ返しでひっくり返した。
綺麗なきつね色の表面が顔を覗かし、ふわっと表面が持ち上がる。
すると、ふんわりとした甘い香りが八面の鼻孔をくすぐった。
その甘い香りが学天にも届いたのだろう。一気に学天の歓喜が八面の背中に突き刺さる。

「・・・後もう少しだから・・・」

その視線にどうして自分がこんなにも弱くなっているのかさっぱりな八面は、早く学天の視線から逃れたくてフライ返しを持ちながら呪文のように念じ始める。

(早く焼けろ早く焼けろ。この俺を怒らせたいわけ?お前、こんなに俺を待たせるなんて命無いからね?だから早く焼けろよ馬鹿)

自分が意味不明なことを思っていることなど百も承知。それでも念じられずにはいられなかった。
ネットに書いてあった時間を見計らって、八面はフライ返しでもう一度ひっくり返した。

「・・・・よかったぁ・・・」

ほっと八面は胸をなで下ろし、火を止めて今まで焼いていた物を皿に移した。
それを八等分にナイフで切ると、バターを溶かして蜂蜜をかけてやった。
八面は一息つく暇もなく、その皿をずっと八面を見つめてきた学天の前に運んでやる。
途端に学天の瞳が今までにないくらい輝きだした。学天が八面と目の前に出された皿の上にある物を交互に見つめる。
八面はため息を吐いた後、苦笑しながら学天の頭を数度撫でてやった。自分も学天の前の席に腰掛ける。

「食べたら?良いよ」

八面の言葉が分るわけではない。それでも学天は何か察したのか最初から用意してあった子供用フォークを持つと、
ぷすりときつね色に焼けた表面を刺した。それをゆっくりと口の中へ入れる。
しばらくの間学天はその体勢でいたため、八面は肩眉を上げた。
何か失敗したのかと思ったが、次の瞬間学天の口がワナワナと震えだし、その瞳がキラキラと光り出だした。

「あぅあわぁ!」

何かを伝えようと必死な学天に八面は苦笑して、頬杖を付ながら学天の頬に付いた残りカスを指の腹で取ると、そのまま自分の口の中へと招き入れる。

「うん、初めてにしてはうまくいったな、このパンケーキ」

両面がきつね色のふんわりパンケーキ。またの名をホットケーキ。
学天がTVを見ていて初めて興味を持った物。TV画面に食いついて離すのに苦労した事が芋づる方式的に思い出される。
学天は瞳を輝かせたままその小さな身体に収まるのかと八面が不思議に思ったほど、
1人でパンケーキ一切れを残して全てをたいらげてしまった。

「そんなに美味しかったのか・・・?」

八面は頬杖を付いたまま、満腹そうにしている学天を見つめた。学天は最後の一切れをフォークで刺すと、
八面の方に尽きだしてきた。八面は驚きで瞠目する。

「え、何?」

「あぁう?あーぅ」

ぐいぐいとフォークで刺してあるパンケーキの一切れを八面に差し出してくる学天の行動に八面は困惑した。
誰かから食べ物をもらったことも、もらおうともしたことがなかった。そんなこと、八面の矜持が許さない。
けれど、学天の瞳に見つめられるとそんな誇りなどどうでも良いと思ってしまう。
八面は息を深く吐くと、差し出されたパンケーキをぱくりと食べた。パンケーキ特有の甘さと蜂蜜の甘さ、バターのしょっぱさが合わさって八面の口に広がる。

(やっぱりこういうのって俺には合わないなぁ・・・)

甘い物が好きなわけではない。寧ろ嫌いな部類に入る。そう思いながら咀嚼していると、学天の期待に満ちた瞳が八面を射抜く。
うっと言葉に詰まりながら八面は何とかパンケーキを飲み込むと、口角を上げて目を細め笑ってみせる。
いつも浮かべるあの酷薄な笑みではない。どうしてこんなに笑うことが難しいのだろうと焦りがら、どうにか笑顔を貼り付けてみた。

「美味しかったよ」

学天は頬を紅潮させて花が飛ぶような笑みを浮かべたかと思うと、コクコクと首を縦に振った。
多分、これは八面の憶測だが感謝の気持ちを表しているのだろう。次の瞬間、八面の胸が炎が灯ったかのように温かくなった。

(・・・なんだろう、これ・・・)

胸の辺りが温かくてどこかきゅっとする。八面は胸の辺りの服を掴むと、眉を寄せた。
何か新しい病なのだろうか。しかし、この前つながりがある闇医者に診てもらったばかりで異常などあるわけがない。

(なんなんだよ・・・)

八面は何度目か分らないため息を吐くと、学天の頭に手を置いた。学天が不思議そうに八面を見上げる。

「また、今度・・・気が向いたら作ってやる」