こらぼでほすと アッシー7
「大丈夫だ。ただし、年末から帰省するから、年明けは十五日以降になる。」
「ああ、そっちはわかってる。爾燕さんは、どうします?」
紅亥児の帰省に、爾燕も毎年、付き合って帰るのだが、店の初出は七日辺りだから、予定を確認する。
「俺は、初出には戻るさ。御節に飽きてるお客様に出すメニューも考えておく。発注は年末にしておけばいいだろう。」
紅亥児は、某国の王子様なので年末年始の行事が目白押しだ。どうしても、この時期は帰省して、それをやらないといけないが、爾燕のほうは、そんな用事はないから、早々に戻って来るつもりだ。
「それでお願いします、爾燕さん。メニューのほうは、提案があれば、爾燕さんに伝えること。本日のお客様は、三組。一組は、五名様で、指名は・・・・」
そして、本日のミーティングに突入する。この時期は連日、予約が殺到するので、接遇するほうも気合が入る。酒をがぶ飲みするように接待はしていないが、逆に、お客様によって食事もされるし、カラオケもされる。さらに、八戒の施術を受けたいなんていうのもあるから、大忙しになる。
「・・・・ということなので、個室の準備もしておいてくれ。俺からは以上です。他に、何かありますか? 」
本日のお客様に対する説明が終わると、キラが手を挙げた。
「営業部長からのお願い。シン、レイ、刹那、きみたち、お化けやって。」
「どれですか? キラさん。」
お化けというのは、ホストクラブ内の用語で、途中でコスプレしてショータイムみたいなことをやったりする賑やかし役のことだ。だいたいは、女装というのが基本だ。シンとレイのコンビで、いつも、それをやってもらうから、二人は慣れている。
「猫耳に尻尾で、メイド? それとも、いっそ、着物でも。」
「着物は新年のほうがよくないですか? キラさん。」
「じゃあ、メイドやろう。刹那、『ご奉仕しますにゃん』って言ってみて。」
わざわざ、招き猫みたいに手を挙げてキラが首を傾げる。命じられた刹那は、意味が解らないままに、同じようにぼそっと「ご奉仕しますにゃん。」 と、言ったら、鷹がひっくり返りそうな勢いで、カウンターのスツールから飛んできた。
「キラッッ、久々にヒットだ。せつニャン、今夜はお兄さんがお持ち帰りさせてもらってもいいかな? 」
「このド変態っっ、ダメに決まってるだろーがっっ。」
その様子に慌てて、親猫が黒子猫を背後に隠す。確かに、無愛想無口な刹那がやると破壊力はある。
「ムウさん、本気すぎて怖いよ? お持ち帰りするなら、僕。」
そして、大明神様も、こんなだ。マトモじゃないのはわかっているが、悪い教育はしないで欲しいと、切実に、親猫はお願いしたいところだ。
「猫耳、尻尾メイドは、今日から? キラ。」
「刹那は、明後日からだね。・・・・うーん、今日は、とれあえず、シンとレイでお願い。僕らは、どうする? 悟空。」
「俺らは、スーツに猫耳でいいんじゃないか? 」
「わぁーサルが猫に変身てか? 」
「うるせぇーぞ、エロガッパ。なら、悟浄は、頭に皿載せろ。」
「ということは、僕は鼻をつけますかね? 」
「いや、八戒さん、施術で忙しいんだから、そっちには参加しなくていいです。じゃあ、今年のクリスマスは猫耳だな? 」
アスランも慣れている。唐突なのはいつものことだ。小道具ぐらいなら調達も楽なものだし、こういうのなら、お客様も、そのビジュアルだけで盛り上がる。クリスマスだから、サンタの格好なんて普通すぎるから、『吉祥富貴』ではやらない。むしろ、賑やかに騒ぐために、ホストたちが、騒ぎのポイントになるものを提供する。
「うん、そうして。まずは、プレイベントでシンとレイでお披露目みたいな? そういう感じ。イヴイヴから、全員、耳付き。」
「ということなので、イヴイヴからクリスマス当日のみ限定で、猫耳デーにします。他にありませんか? 」
スタッフからは、これといってはないので、ミーティングは終わった。お客様の予約時間まで、まだあるから、それぞれが準備やら休憩やらでバラける。
「今日は、帰って下さい。ロックオン。」
「そうさせてもらうよ、アスラン。」
「明日も休んでね? 刹那と、ちょっとゆっくりしないとね。」
今日明日、刹那を休ませろと言うなら、もれなく、親猫もお休みだ。そうしないと、刹那もくっついてくるからだ。だから、キラも、そう言う。
「すまないけど、そうさせてもらうな? キラ。」
黒子猫をゆっくりさせてやるなら、そういうことだと、親猫も解っているから反論はしない。おやつは作ってあるし、帳簿は、一日二日溜めても、慌てることはない。だから、ふたりして、後片付けをして店を出た。トダカ家は、ここから徒歩で十分ばかりのご近所だから、運転の必要もない。
「服だけ調達するぞ。」
「ああ。」
着替えと明日の服を調達するために、近くのショッピングモールへ足を進める。刹那も親猫も、それほど服に拘りはないから、サイズが合えば、それでいいので簡単だ。
「・・・いつ気付いた・・・」
途中で、刹那は口を開いた。
「おまえが出て、しばらくしてから。」
主語はぼかしているが、アレルヤたちのことだと、どちらもわかっている。キラキラとクリスマスのイルミネーションが輝く歩道を歩いている。少し寒いから、ロックオンが、自分のマフラーを黒子猫に巻きつける。
「おい。」
「どこへ行ってたか知らないが、気温差はあるだろ? 」
「すまない。」
「いいや、おまえらは、俺のことを心配して、そうしてくれたんだろ? 確かに、あの時期は、へばってたからな。」
刹那もフェルトも、何も言わなかった。言えば、ロックオンが動こうとするし、心配して余計に具合が悪くなるのは解っていたからだ。聞かされて、親猫は、予想通りに動こうとして、心労で潰れたわけだから間違っていない判断だ。
「できれば知られずに乗り切れたらよかったんだが・・・」
「そりゃ無理ってもんだ。ごめんな、力になれなくて。俺も居場所は教えてもらってないんだ。」
結局、ロックオンはラボに入れてもらえなくて、未だに、アレルヤたちの詳しい情報は掴めずにいる。なんとかならないか、と、考えているのだが、救出するのにも装備と人員は必要になるし、自分ひとりで、どうにかなるわけもない。実際問題として、組織に、それだけの作戦を展開できるだけの体力が今はない、と、歌姫にも指摘された。
ティエリアたちの新しいMSが完成して、ある程度、ヴェーダから情報が引き出せれば、それは可能になる。それまでは静観するしかない。そう告げて、ロックオンは刹那の頭を撫でながら謝る。この利かん坊が飛び出さないのも、そこが理解できているからだ。ぐりぐりと撫でていた手を掴まえて、刹那が青い光りを点滅するもみの木のディスプレイの前で立ち止まった。
「あんたは、組織のことには関与しないでくれ。・・・頼むから・・・あんたは、ここに居てくれるだけでいいんだ。もう、あんな気持ちになりたくない。」
作品名:こらぼでほすと アッシー7 作家名:篠義