紅梅色の多幸な現
群青色
吸血鬼の一種『青鮫』である黒沼青葉も当然、噂については耳にしていたが、他者程には探す気になれないでいた。というのも吸血鬼が比較的恵まれた捕食者だからである。上手く立ち回れば輸血パック等が手に入るし、骨肉や臓器等に比べれば提供者も得やすい。何より、吸血行為に伴うあの独特の感覚を欲して自ら進んで食われに来る物好きがいるのだ。斯く言う青葉にも宛てはある。躍起になって噂の人物を探すことはない。
なかったのだが、学年1つ上にいた。
委員会が同じでなければ気づかないくらいには目立たない人物だったが、彼の傍らにいた人ならざる者から彼の血の臭いがしたので恐らく間違いない。その捕食者が食われる側へ何の利益も齎さず害ばかりを与えるという寄生蟲で、しかも『祖』だったことには少なからず驚かされた。その寄生蟲は青葉に気づくと餌を取られまいとしてか無言で睨みつけるという威嚇をしてきたが、なる程、唯1人にその身を献じるのは他まで面倒を見る余地がないのだろう、合点がいく。
しかし寄生蟲とは。
それ程に近しいのなら恋仲なのかと思えばそうではなく、随分と曖昧な関係をここ1年続けているらしい。それでも彼は寄生蟲である彼女を他者と同じく扱うし、食われているにも拘わらずそれを表に出すことはない。内情を隠すことに慣れているのかと疑えば感情はすぐに表層化するので、もしや本当に何とも思っていないのかとすら思える。だとすると彼は噂以上に見返りを求めない性質なのだろうか。
青葉は思案する。
彼を餌として見るならば、食われているせいか元からなのかは知れないが痩せていて生白く、食い甲斐があるとは決して言えないが、人物として見るなら興味深い。自分が関与することで彼と彼女との関係性に波風が立ち、その結果として噂に変化があるならばそれも見物だろう。
出来れば自分にとって楽しい結果になると良い、そう思いながら青葉は口の端を歪めた。