こらぼでほすと アッシー8
一番年下の刹那が、日常的な知識が、ほとんどないことがわかったから、そちらのことも教育してきた結果、こういうことになっているのだ。もちろん、そこいら辺りは、ティエリアもアレハレルヤも同様だ。家庭というものを知らない子猫たちに、少しぐらい、そういう気分を感じさせてやりたいと思って、イベントごとや家庭でやりそうなこともやってきた。
「最初は大変だったんだぜ? こいつ、野良猫並に警戒心が強くてさ。触らせてもくれなくてさ。」
「あー、それ、わかるわー。ママニャンもいらぬ苦労しまくってるなあ。」
「かといって、ほっとくと、髪の毛は洗ったままで放置するし、服も着替えないしさ。食事だって、携帯食とかサプリメントで、どうにかしやがるんだ。」
よくもまあ、ここまで懐いたよなあーと、感慨深げに、親猫が黒子猫の背中をトントンと叩くと、黒子猫は、バツが悪そうに立ち上がり、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
「それ、冷たいから一気飲みすんじゃねぇーぞ。」
「あんたのだ。それだけでは、栄養が足りない。」
「じゃあ、コーヒーと混ぜてくれ。」
「わかった。」
黒子猫は言われた通り、コーヒーサーバーに溜まっていたコーヒーと牛乳を混ぜて、食卓に置く。その一連の流れが、本当に親子らしくて、ハイネは笑い出した。
「はははは・・・いや、いいよ。せつニャン、おまえにだけは饒舌だよな? 」
「そうか? キラや悟空とも喋ってるだろ? 」
自分の分もカフェオレ牛乳多目砂糖たっぷりなんてものを作り、親猫の横で飲んでいる黒子猫は、他のものとは、ほとんど会話が成立しない。視線だけで会話するから、それがわかるキラや悟空ぐらいしか会話にならないのだ。
ハイネが出かけてから、洗い物を済ませると、親猫はバタバタと食料の確認を始めた。初日に、ハイネが買出しに付き合ってくれたから、それなりに揃っているはずなのに、何事だ? と、黒子猫は、それを眺めている。
「やっぱ、小麦粉が足りないな。あと、無塩バターか・・・刹那、ちょっと買い物に行って来る。なんか食べたいものはあるか? 」
だから、今日は一日、ゆっくりと休養しろ、と、言われただろうと、黒子猫は睨む。
「明日、悟空のとこへ顔を出すのに、ケーキでも焼こうと思ってさ。さっき食べたのとは違うのだから、おまえさんも味わえよ。」
「そこじゃない。」
「ああ? 」
「今日は休養日だろ? ケーキは明日にしろ。」
「あのな、別に寝てなきゃならないってんじゃないんだよ。それに、おまえさんにも食べさせたいと思ってたしさ。・・・スーパーなんて、すぐそこだ。気になるなら、一緒に来い。」
そして、言い出したら、このおかんも聞かないので、刹那も諦めてついていく。起きぬけの頃よりは顔色も血の気があるから、そこまで具合は悪くないんだろう。それに、刹那だって一緒に、おでかけはしたい。せっかくの青いコートを着たいからだ。
「わかった。ただし、戻ったら休め。」
「はいはい。」
徒歩圏内の大型スーパーまで遠征して、買出しして、荷物は刹那が持った。二人だし、それほど荷物は多くない。ラクスから、いろいろとお菓子のレシピを貰ったから、作ってやる、と、親猫は言う。
「あれがいい。プリンの入ったやつ。」
刹那がリクエストしたのは、クレープにプリンを挟んだおやつだ。手軽にできるので、トレミーでも、定番になっていたメニューだ。
「それなら、夜はクレープにしようか。食事用とデザート用の具材を作って好きに巻いて食べればいい。」
寺では、三蔵が洋食が苦手でできないメニューなので、この際、やってみようということになった。ふたりだが、翌日までクレープの皮は保存できるから、デザートのほうは寺へもお裾分けできる。
翌日、午後近い時間に、寺のほうへ顔を出した。さすがに、徒歩三十分というのは辛いので、タクシーで移動した。
「なんだ? その荷物は? 」
大きな紙袋を二つ、刹那が持っているので、三蔵は尋ねる。
「お昼まだでしょ? 洋食ものですが、どうですか? 三蔵さん。」
「洋食? メシはあるから、俺はそっちを食うぞ。」
「じゃあ、おかずになるようにアレンジします。」
ツナサラダがあるから、これを、そのまま出せばいいし、ハムやベーコンも同様だ。クレープのほうは、おやつになりそうなものを巻けばいいから、和食メニューに、おかずのほうは作り直した。
「おまえ、作るだけじゃなくて食えよ? 」
「はいはい。」
「ちび、そいつは、ちゃんと寝てたのか? 」
「ああ。」
昨日、この女房は仕事を休んでいた。まあ、あれだけ走り回れば電池切れも起こすだろう。ということで、誰もが納得していたが、それで、翌日に、いろんなものを作ってくる辺りが、休んでいたのかどうかが怪しい。とはいえ、食事の準備をしてもらえるのは、坊主としても有り難いから、あまり、そこいらはつっこまなかった。女房が居ないと、ここの昼食というのは、白メシと味噌汁と漬物という、いたってシンプルなメニューだからだ。
ちゃっちゃっと作られたおかずは、出し巻き卵だのツナサラダだのという簡単メニューだが、それだけでも、実は坊主としては嬉しかったりする。
「もう、うちに帰って来い。」
「それでもいいですけどね。」
そんなことになっているのは、ロックオンのほうも解るから、そう言う。別にマンションに拘らなくても、こちらでも同じことではあるからだ。
「ちびと二人でなくてもいいだろうが? 」
「いや、そうなると、刹那の服を運んで来なきゃならないでしょ? 荷物があると、さすがに移動が・・・」
それだけではない。あちらの食材も運ばないと、腐らせてしまう。そうなると、荷物は、かなりのことになるから、移動が大変だ。
「なら、アッシーを使え。」
「ハイネならラボです。」
「別のがいるだろ? 」
言い合いしても埒が明かない。食事を前にして、三蔵は、すかさず携帯でアッシー二号に連絡する。誰でもいいから、アッシーしろ、と、怒鳴ると切ってしまう。
「三蔵さん? 」
「どれか来るはずだ。それまで、メシ食って寝てろ。」
「それ、迷惑でしょ? 」
「かまわねぇー。俺は迷惑じゃないからな。」
さすが、マイノリティー驀進の鬼畜坊主だ。他人の迷惑は関係ない。さあ、メシだ、と、さっさと食べ始める。つられて、刹那も手を出すので、諦めてロックオンも食事に手を出した。
食事が終わる頃に、レイが現れた。あれから三十分と経っていないのに、慌てた様子も無く居間に顔を出した。
「アッシーに来ました。」
「ごめんな、レイ。」
レイのほうは、別に迷惑とは思っていない。ちょうど、学校も冬休みに突入しているし、店は夕方からだから、身体は空いてます、と、言う。
「メシは? 」
「ブランチはしました。」
「なら、ちょっと食べな。」
作品名:こらぼでほすと アッシー8 作家名:篠義