こらぼでほすと アッシー8
持参したクレープに、チーズとトマトを巻いてオーブントースターで、チンすると、差し出した。とりあえず、これを食べてろ、と、言い置いて、さらに、三個ばかり中身の違うものを作って、レイに出す。その間に、三蔵には食後のコーヒーも用意する手際のよさだ。ばくっとレイが齧りつくと、中身がとろっと出てくる。ほどよい融け具合のチーズとトマトの組み合わせはおいしい。
「刹那も食べるか? 」
「もういい。おやつ。」
「それなら、荷物を持ってきてからな。レイ、時間あるんだろ? おやつも食べるよな? 」
「はいっっ。もちろん。」
「それ、うちのサルのもあるのか? 」
「ええ、昨日、かなりの生地を焼いておいたから大丈夫です。もし足りなかったら、また焼けばいいし。それに、シフォンケーキもありますよ?」
「・・・・おい、ちび。こいつ、本当に寝てたのか? 」
「昼に二時間寝た。それから、夜も早めだった。」
マンションに居れば居たで、何やらごそごそと動いている様子に、坊主は呆れて睨む。そんなことしてるなら、一日、ぐたぐたと融けていろ、と、怒鳴りたくなるところだ。
「そういや、悟空は? 」
「学校の図書館へ行った。冬休みの宿題があるんだそうだ。・・・レイ、大学生にも、そんなもんがあんのか? 」
「たぶん、年明けの期末試験の代わりにレポート提出があるんじゃないですか? 」
この中に、誰も大学生活をちゃんと送った人間は含まれて居ない。レイだけが、経験者だ。
「年明けに試験なんかあんのか? レイ。」
「はい、夏休み前と冬休み明けに前期と後期の試験があります。試験といっても、レポートを提出するようなものもあるし、テストもあります。悟空が取っている教科によって、それは変ります。」
もぐもぐと三個目のクレープを食べつつレイが説明する。大学生なんて、テストはないと思っていたから、保護者陣は驚いた。夏休み前は、ロックオンは、梅雨からゴタゴタしていたから知らなかった。
「おまえらは大丈夫なのか? 」
「俺とシンは、ほとんどの単位は取りましたから、後はゼミの分だけなので、それほど忙しくはないです。ニ回生までは、教養課程があるので、科目が多いんですよ、ロックオン。」
四個目は、レタスと目玉焼きの組み合わせだ。こちらも、半熟タマゴとレタスのシャキシャキ感が楽しい。それを、もぐもぐと食べつつ、レイが説明する。
「三蔵さん、悟空、大丈夫なんですか? なんなら、年明けは店を休ませて勉強させたほうが・・・」
「別に、サルの好きにさせとけばいい。落第したってかまわねぇーよ。」
社会勉強も兼ねているから、落第しても、坊主は痛くも痒くもない。学費は、ちゃんと用意したから、それくらいの余力はある。何かやりたいことが見つかればいいと思っているから、三蔵は慌てない。
「てか、あいつ、レポートなんて書けんのか? 机に向かってるとこを拝んだことがねぇーぞ。」
「宿題は学校でやってたらしいですからね。俺も、見たことありません。でも、せっかく勉強してるなら、ちゃんとしたほうがいいんじゃないですか? 」
「真面目に通ってたら、俺としては御の字だ。」
「けど・・・」
「うぜぇーんだよ。サルがやりたいようにやらせとけ。ごちゃごちゃ言うんじゃねーぞっっ、ママ。」
どっからどう見ても、子供を心配する母親と、放任主義の父親にしか見えないな、と、レイも内心で笑っている。
「レイ、おまえらも勉強優先だぞ? バイトより勉強のほうが、若いうちは大事なんだからな。」
そして、矛先は自分にも向く。
「大丈夫です。ちゃんと自分で考えていますから。」
「今日は、本当によかったのか? おまえさんもレポートとかあるんじゃないのか? 」
「ありますが、計画的に勧めているので問題はありません。シンのほうが少し遅れているので、今日は来れなかったんです。」
アッシー二号は、ただいま、レポートの題材が決まらなくて唸っていた。それで、レイにお鉢が回ってきたのだ。
「ママ、どこまで教育ママになるつもりだ? 」
「いや、だって、レイたち年少組も、同じことでしょう? うちの子なんだから。あんたが、そう言ったんじゃなかったですか? 三蔵さん。」
「そこまで生真面目におかん稼業しなくていい。ちったぁーのんびりすることを覚えろ。それも命令したぞ? こいつらのことより、俺の世話が優先だ。亭主に貧しい食生活させるんじゃねぇ。」
あーうぜぇーと吐き捨てるように言うと、坊主は立ち上がる。財布を懐に入れているところを見ると、パチンコだろう。晩酌の肴も作れ、と、命じて、さっさと逃げ出してしまった。
もう、あの人は・・・と、女房のほうは呆れたように呟いている。そこへ、紅茶を飲み干したレイが話しかける。
「ロックオン。」
「ん? 足りなかったか? 」
「いえ、十分です。ごちそうさまでした。・・・あの・・・俺も、あなたの子供なんですか? 」
確か、ロックオンは、「レイもうちの子」 という意味のことを言った。とってもびっくりする言葉だった。
「あ、ごめんな、勝手に。ほら、俺、刹那たちがいないと、世話することがなくてダメダメになるからさ。年少組も、同じように扱えって、三蔵さんに言われたんだよ。まあ、ぶっちゃけ、おまえさんたちも、うちのと変らない年なんだし、俺でできることならって。だから、こっちが、そのつもりなだけでさ、おまえさんたちに、それを強制するつもりなんか全然ないから、気にしないでくれ。」
「お母さんになってくれるんですか? 」
「できたら、世話好きの兄貴ぐらいにしてほしいんだけど? 」
「できたら、お母さんがいいです。俺には、いないので・・・その・・・嬉しいです。」
まともに両親がいるヤツは少ないと言われていたことを思い出した。レイは保護者はあるが、それは血は繋がっていないということなのだろうと察した。
「いいよ、おかんで。その代わり、がんがん叱るし、説教もするからな? 覚悟しとけ。」
「はい、喜んで。キラさんみたいに拳骨してくれても構いませんよ。」
レイは嬉しそうに笑っている。その笑顔が切ないな、と、レイの頭をぐりぐりと撫でた。刹那たちのような境遇の人間は、意外と多いのかもしれない。
「こちらこそよろしく。」 と、ロックオンがレイに返事すると、背中から圧力がかかった。黒子猫が背後からへばりついている。
「これは、俺のおかんだ。俺がいない時は貸してやるが、俺がいる時は、おれのものだ。」
「こら、そんなこと言わないの、刹那さん。仲良くすりやいいだろ? 」
「やだ。ロックオンは、俺のものだ。」
「だぁーれが、おまえのものなんだ? 俺は組織の備品じゃねぇーんだよ。ブツ扱いすんな。」
「備品なら、生体認証して保管しておけるのに残念だ。」
「おまえさん、今、本気だったな? エクシアと同じ扱いしてんじゃねぇーよ。」
「エクシアとあんたは同等だ。」
「ガンダムと同等って・・・・そんなに大事にしてくれなくてもいいよ。」
作品名:こらぼでほすと アッシー8 作家名:篠義