こらぼでほすと アッシー9
八戒とアスランが、遊ぶ気満々のキラに注意する。さすがに、新年まで、あと僅かなんていう時間だ。どこも、準備でバタついている。
「それに、ママがダウンしてるから、今夜辺り雨だぞ、キラ。早めに家に戻ったほうがいいんじゃないか?」
『吉祥富貴』随一の常識人の悟空が、そう言うと、キラも大人しく頷いた。
「えーそうなの。なら、仕方ないね。じゃあ、二日に。」
「おう、来年もよろしくな。」
他の者は、坊主を除いて、年末の挨拶をする。来年もいろいろとありそうだとは思っているが、それは言わぬが華というものだ。挨拶すると、アスランたちも、すぐに帰った。
さて、トダカ家のほうは、掃除は終わっていたが、買出しだのなんだのと、まだバタバタはしている。食事のほうは、御節は買って用意しているが、年越し蕎麦や、飲み物の用意をしている最中だ。トダカとシンは、手出し無用とアマギに追い立てられて、ロックオンの部屋で、刹那と三人でババ抜きなんてものをやっていたりする。
「何か飲まないか? ロックオン。」
「いや、俺はいいです。・・・・そろそろ降りますよ? トダカさん。」
己の体調で、降雨時間まで把握できてしまうのか、ロックオンは、そんなことを言う。
「雪だったら、見に行こうな? 刹那。」
「ああ。」
シンも、親猫の様子で、雨なのはわかったから、そう言う。どうせなら、ガンガン降って積もってくれるほうが楽しい。
「積もるかな? 父さん。」
「どうだろうな。予報では、雪だが。」
戻ってから、携帯端末で天気予報を確認した。夜半から雪に変るとは予報されているが、積もるかどうかはわからない。近年、特区やオーヴは、あまり雪が積もらない地域になっている。
シンの手札から、一枚抜くと、トダカは、「あがり。」 と、自分の手札と共に落とした。残ったのは、シンと刹那だ。
「よおしっっ、気合いだっっ。こいっっ刹那。」
「了解した。」
刹那は、ババ抜きは初めてなので、あまりわかっていない。二枚のうちのどちらかが、刹那の手札と同じであるはずだが、それを見極めて引くというより、適当に片方を引いた。見たことの無いものなので、ベッドから横になったまま観戦している親猫に、その札を見せた。
「これは、ババか? ロックオン。」
「うん、ババだな。今度は、シンが引くから、わからないように混ぜろ。」
「ふふん、俺は、これでもザフトレッドだぜ? ママ。精神戦なら、俺のほうが強いぞ。」
「おまえさんさ、そこで、ザフトレッドを持ち出すか? 」
「勝負は何事も真剣なんだよ。ほら、刹那、札を出せ。」
目の前に刹那が出した二枚の札を、じっくり眺めて手を出す。そこへ扉が開いてキラが乱入してきた。
「シン、左っっ。」
命じられると従ってしまうのが、わんこ体質のシンだ。左の札を取り上げたら、ババだった。
「ちょっ、キラさんっっ。俺、右だと思ったのに。」
「刹那、僕が勝たせてあげる。シンなんかに負けちゃダメだからね。」
「キラ、そんな八百長しちゃダメだよ。こんにちは、トダカさん。お邪魔します。」
キラとアスランは、アマギに案内されて、こちらに通された。すぐに帰りますから、と、アスランが言ったのだが、すかさず、お茶が運ばれてくる。そんなものは無視して、キラはベッドの端っこに座って、親猫の顔を覗きこむ。
「ママ、大丈夫? 」
「朝より楽になったから大丈夫だ。どうかしたのか? キラ。」
ぎゅっと抱きついてから、キラがアスランに視線で合図すると、アスランもジャケットの内ポケットから青いトリィを取り出して電源を入れた。トリィ、トリィと鳴きながら部屋を飛び、刹那の頭にちょこんと着地した。
「これ、届けに来たんだ。ずっと、預かったままだったから。」
そう言えば、昨年のキラの誕生日の後で刹那が貰っていたな、と、思い出した。あの後、しばらくは刹那の傍を飛んでいたのだが、組織へ戻ることになってアスランに預けたのだ。
「そういやそうだったな。」
「刹那、ここのボタンが電源だ。静かにさせたい時は、電源を切ればいい。」
刹那の姿を認識させてあるので、周囲からは離れることもない、と、もう一度、そう説明したら、刹那が、それは複数に変更できるのか? と、尋ねた。
「できるよ。今の記憶容量だと、せいぜい二人ぐらいだと思うけど。容量を増やせば、その分だけ人数も増やせる。」
「それなら、ロックオンにも懐くようにしてくれ。」
「いいよ。じゃあ、休みの間に仕上げておくから、もう一度、引き取るな。」
二人の間を行ったり来たりする光景は、なかなか和むだろうな、と、アスランは微笑みつつ、再度、トリィの電源を落とす。
「ロックオン、水分を摂りなさい。」
アマギが運んできたスポーツドリンクのペットボトルを差し出す。ずっと、ぐだぐだとしていて、まだ、ほとんど何も口にしていない。食事はいいとしても、水分くらいは摂らせないと、と、無理矢理、抱え起こす。アマギの手から、キラがペットボトルを取り上げて、そのキャップを外して、悪戯な小悪魔笑顔になっている。
「僕が飲ませようか? ママ。」
「アスラン、こいつ、とんでもないこと言ってるぞ? 」
「あははは・・・俺も、あなたならできそうな気がしますけどね。」
「おい、勘弁してくれ。同性同士のキスなんて、宴会の余興だろ? 」
「なら、パパからはどうだい? 」
「・・・トダカさん・・・」
「あー弟からってーのは? 」
「・・・シン・・・」
みんな、ノリノリでからかうから始末に終えない。いちいちツッコミすると体力を消耗するので、ツッコミたくない。てか、これにノル気力が湧かないので、ぐったりと肩を落とす。
「大人しく飲まないから、そうなるんだ。キラ様、お返しいただけますか? 」
背中を支えているアマギが大笑いしつつ、キラから返してもらって、ロックオンの目前に差し出した。自主的に飲まないと、誰かに口移しされるとなれば、ロックオンも大人しく飲むしかない。
結局、シンは負けた。キラが刹那の背後から、「負けろ。」だの「ババをひけ。」だのというオーラで微笑むのに負けた。陽が落ちて急激に温度が下がってくる頃に、キラたちも引き上げた。見送りに、マンションのエントランスまでシンと刹那が出て行くと、予報通りの雨になっている。雨というよりは、少し霙交じりで白いものだ。
「本当に雨だね。」
「シン、刹那、来年もよろしくな。」
「こっちこそよろしく。」
挨拶して、早々に双方が引き上げる。これは、真夜中には雪に変りそうだ。トダカ家は、年越しすると、すぐに近くの神社に初詣に出かることになっているので、年越しの宴会は、あまり飲まない。いや、トダカーズラブの面々には度を越して倒れるのもいるから、生き残ったのだけで行くことになる。
「刹那、来年はいい年になるといいな。」
「・・・ああ・・・だが・・・」
組織の再生は、まだ完全ではないし、MSがロールアウトするのも来年には無理だろう。そうなると、アレハレルヤの救出も来年はできないという算段だ。マイスターが揃うのは、再来年以降ということになる。
作品名:こらぼでほすと アッシー9 作家名:篠義