こらぼでほすと アッシー9
「ハンペンなんかどうです? 」
「それでいい。焼いてくれ。」
「悟浄、代わって下さい。」
満腹している宿六に焼きは代わらせて、ハンペンを冷蔵庫に取りに行く。これは焼いて生姜醤油をつければ、おいしい酒の肴だ。そして安い。冷蔵庫からニパック出して、ふたつに切り分けてホットプレートに並べる。おでんを作成したのだが入り切らなくて残っていた食材だ。生姜は、チューブでそれと醤油を混ぜればタレも完成だ。
やれやれ小休止と、八戒も缶ビールを取り出してごくごくと飲む。初詣なるものは、八戒たちの地域にもあるが、まあ、自分たちには関係はないものだ。だから、この寺では新年の行事というものはない。正月飾りすらスルーしている。一応、これから新年の夜明けまで起きていて、行く年を惜しみ、来る年を祝うという正月行事だけはやる。これも、本来は旧暦でやるものなのだが、そこまで厳格にやるつもりはない。用は区切りがあればいいのだ。坊主だけは、旧暦の晦日から年越しを本山のほうで執り行ってくる。一応、あちらで管理責任者になっている寺院があるからだ。二泊三日くらいの出張ということになっていて、どこのビジネスマンなんだ、と、毎回、悟浄がツッコミをかましている。
・・・さて、来年はどうなることやら・・・
しばらくは、落ち着かないだろう。刹那たちが再始動して、この引き起こされている歪んだものを壊さなければ落ち着かない。それは、来年では無理だ。ここ数年はかかる。
「おい、そんなとこで飲んでないで戻って来い。」
「そうだよ、八戒、あんま食ってないだろ? 」
坊主とサルが叫ぶので、はいはいと戻る。とりあえず、この騒ぎが来年もできればいいというぐらいにしておきましょうと、八戒も戻った。
テレビの中継で除夜の鐘が鳴り始める頃、トダカ家は初詣に出かける。見送りに行こうとしたら、刹那に止められた。
「ダメだ。雪になっている。」
「じゃあ、玄関までな。寒いからコート着て、それからマフラーもするんだぞ。シン、手袋の予備ないか? 」
「おう、あるぜ。」
寒がりの黒子猫だから、温かい格好をさせなければ、と、親猫はやっきになっている。靴下も二枚履くか? なんて言い出したので、シンが止める。そこまでしなくても、徒歩十分くらいの氏神様だ。それほど寒いわけはない。全員、酒が入っているから、近場で済ませている。
「ママ、そこまでしなくても大丈夫だ。すぐに戻るつもりだが、起きていなくていいから。」
「いや、トダカさん、こいつ、寒がりなんですよ。熱いとこ生まれなんで。」
「コートで十分だ。じゃあ、行こうか。」
玄関まで見送ったが、開いた扉の向こうは雪だった。これは、傘が必要だ、と、アマギが傘立てから人数分取り出して出かけた。バタンと閉まった扉に手を振り、居間のほうへ引き返す。ある程度は、親衛隊が片付けているが、残ったものを纏めて洗い物をしておこうとして、窓のほうへ目をやった。白い雪が降っている。
・・・・刹那には、いい正月だな・・・・
今まで、こんなふうに正月行事なんてものをやったことはない。クリスマスは、トレミーでもやっていたが、それも、組織が完全始動してからは、やる暇がなかった。特区は極東地域なので、自分たちが知らない行事がいろいろとある。それも、一緒にやってくれる同じくらいの年齢のものが多数居る。できれば、ここ何年かは、こんな時間をできるだけ、ティエリアや刹那に持たせてやりたいと思う。
携帯端末が着信した。相手は歌姫様だ。ようやく、今年のスケジュールを消化したので、年明けの挨拶だった。
「お疲れ様。正月はゆっくりできるのか? 」
「ええ、八日まで休みです。七日の店の初出には参加いたします。」
「無理しないでのんびりしてろよ? おまえさん、二週間ノンストップだったんだからな。」
「ええ、そうします。・・・ママ、今年は私と年越ししてくださいませ。刹那も連れて一緒に。」
「もう予約か? 気が早ぇーぞ。」
「でも、早く押さえませんと、寺とお里で独占されてしまいますもの。」
「はいはい、わかったよ。今年な。」
どうせ、そんな先の予定は忘れるだろうと気安く引き受けているが、歌姫様が、そんなドジなことをするわけがなく、きっちり確保されてしまうのは、今年の末の話だ。
「それでは、失礼します。些か疲れました。」
「ああ、ゆっくり風呂に入って温まれよ? 風邪ひくからな。」
「・・・ママ・・・私はコーディネーターだと申し上げておりますよ? 」
「コーディネーターでも疲れりゃ風邪ぐらい引くだろ? おかんの言うことは、素直に聞け、ラクス。」
「はい、では、そういたします。おやすみなさい。」
普通に、そう叱ってくれる言葉に、ラクスは嬉しそうな声で挨拶して切った。わざわざ、コーディネーターとか区切るんじゃねぇーよ、と、おかんのほうも笑いつつ携帯端末を閉じる。とりあえず、片付けるか、と、居間のほうへ顔を出したら、屍が二個転がっていた。MS乗りの二名が、トダカに負けて沈没したのだ。
客間のほうへ運ぶ前に、布団を敷かないと寝かせられない。そちらのほうをやって、声をかけたが屍だから動かない。持ち上げて運ぼうとしたら持ち上がらない。
・・・・なるほど、筋力落ちてると、これぐらいで運べないのか・・・・
以前なら、アレハレルヤたちでも持ち上げられたのだから、その具合は、自覚できる。動かしようがないので、毛布を被せておいて、食器を台所へ下げてしまうことにした。
そこへ、また、メールが着信した。今度は、ハイネだ。暇だから電話してもいいか? という内容で、こちらから電話する。
「宴会は終わったか? 」
「ああ、みんなで初詣に繰り出したよ。おまえさんのほうは? 」
「まだラボだ。まあ、この時期は、何もないはずだけど、一応、一人は待機してることになっててな。・・・・新年おめでとう。今年もよろしくしてくれ。」
「おめでとう。こちらこそ、よろしく。来年は、俺も手伝いに行くよ。」
「無理だな。どう考えたって、おまえさんは、ラボなんぞに来られる道理はない。」
「刹那と二人で待機ぐらいならやれるさ。」
「いや、そこじゃねぇーよ。絶対に賭けてもいいぞ。お里と寺で取り合いになる。おまえさんを、ここに送るぐらいなら、オーナーが自分のところのスタッフを寄越すぜ? 」
ダコスタとハイネが貧乏くじをひいているようにみえるが、実際は自主的に引き篭もっているが正しい。この時期、外で新年を迎えても、暇でしょうがないからだ。ロックオンには、来て欲しいという相手が、わんさかいるわけで、わざわざ引き篭もる必要はない。
「だから、彼女でも作れよ。」
「それも面倒なんだ。わかってるだろ? 」
「わかるけど、ハイネは、それが重荷になるような状況じゃなくなってるだろ。」
「けど、俺もいつかはフェイスに復職するからな。そうなると、また重荷になるのは確定だからさ。・・・・別に寂しいとは思わないぜ。」
「戻るつもりなのか? 」
ハイネは休職しているとは言っていたが、戻るつもりはないのだろうと思っていた。だが、答えはNOだった。
作品名:こらぼでほすと アッシー9 作家名:篠義