こらぼでほすと アッシー11
バレンタインにナンバーワンホストの大明神様は、チョコをたくさんゲットしていた。『吉祥富貴』としては、欧州風に、お客様に花束と愛の言葉を贈ったが、女性陣は、ちゃんと、極東風の贈り物をしてくれたのだ。それが、山のようにあるので、些か、食傷気味だった。
お寺に出向いて、「おやつぅー」 と、叫んだら、ちゃんとおやつが出てくる。今日は、焼きソバだった。それも、ショウユ味というあっさりバージョンだ。
「ママ、愛してるーーーんっっ。」
「あーはいはい。アスランも飲むか? 」
ここのおやつというのは、店での軽食までの繋ぎみたいなものだから、かなり重いものが出て来る。それで、年少組には好評で、ちょこちょことやってきて食べている。
「いや、俺はお茶でいいです。」
ついでに、三蔵が軽く晩酌までやっていくので、酒の肴なんかも並んでいたりする。ここで、こんなことをしているから、カウンターで待機しているうちに、トダカを口説く事態に陥るのだが、当人は記憶に無い。
「今日は出勤か? 」
「いえ、今日は休みです。」
ロックオンは、週三日が出勤で、残りは家で待機している。まだ、それほど回復していないから、それぐらいのことにしとけ、と、みんなに言われているからだ。
「えーーー一緒に行こうよーーーそれで、ポテトサラダとコロッケ作ってーーー。作ってくれなきゃ、僕、仕事に行かなーーーいっっ。」
「どこの駄々っ子なんだ? おまえさんは。別に出勤してもいいけどよ。」
店のほうから出勤するな、と、言われているだけだから、ロックオンは行こう、と、言われれば断らない。
「うふふふ・・・やったあー。」
いいのだ、何かしらの用事があるほうが、ロックオンの体調にもいい。だから、キラの我侭なんてものは、黙認されている。ただ、アスランも、ちょっと気になった。キラの食べっぷりを眺めているロックオンの様子が、ちょっとぼんやりしているのだ。視線で、三蔵に問うと、軽く頷かれた。なんかあるらしい。
「おい、辛気くせぇーぞ。」
「いえ、いや、まあ。ちょっと考えてることがあって・・・」
「なんだ? 」
「大したことじゃありません。」
何度か、三蔵も水を向けるのだが、はぐらかされている。同年代組では、埒が明かないらしい。ハイネも、それとなくは探っているが、吐かない。
「ママ、俺のも。」
「おう、ごくろーさん。」
悟空が境内の掃除から戻って来た。枯れ葉を掻き集めていた。たくさん溜まったら焼き芋しようと考えているのだが、なかなか溜まらない。すぐに、悟空用の特盛り焼きそばが運ばれてくる。
「おい。」
「ダメです。今日は出勤だから、それで終わり。」
お代わりを頼んだ三蔵のグラスを取り上げて、お茶を運んでくる辺りは、寺の女房としては、ちゃんと機能している。
刹那からの返信で、二月の終わりには戻るという報告があった。接触は終わったということだろう。
「賭けるか? 」
「まさか。」
その報告をラボで受け取った虎と鷹は、報告をキラの携帯端末に転送しつつ会話している。ハイネから、刹那が、次のマイスターとの接触に向かったという報告は受けていた。ただ、相手が、ロックオンの唯一の肉親というのが、ポイントだ。どういう反応をするのか、黒子猫のリアクションが掴めないから、賭けにならない。
「確かに、次の機体を組み直すにしても、生体データが、以前と同じならやりやすいだろうがなあ。」
「容れ物のほうはな。だが、中身がなあ。」
「ママの意図は、そこなんだろ? 中身はスルーしているんじゃないか? 」
「同じ遺伝子搭載って言っても、全然違うんだろ? あちらさん、一応、普通の人だ。うちでは、珍しい経歴だぜ? サラリーマンって・・・」
「いないな。確かに。」
軍人だの坊主だのスナイパーだの王子様だの神様だの大明神様だのという経歴の持ち主ばかりの『吉祥富貴』では、在り得ない経歴だ。そんな人間に、テロリストなんてできるのか? というところが疑問だらけだ。
「だが、鷹さん。彼は、一応、カタロンの構成員ではあるだろ? あちらも勢力は増大の一途だ。」
「エージェントと実働部隊は違うと思うけどな。」
連邦が創出されて、反政府勢力も創り出されている。特に、独立治安維持部隊の横行に対抗する勢力として、カタロンは急先鋒として拡大していく組織だ。物量の問題から、抵抗自体は、それほど効果はないのだが、確実に、部隊の進行は阻んでいる。
「トダカさんは、なんて言ってる? 」
「お父さんは、どちらでもいいとさ。それで、ママが精神的に安定するっていうのなら、もどきなんぞ、どっち向いててもいいらしい。」
「お父さん、娘には過保護だなあ。」
「二月の末に結果が出るわけじゃないからな。接触といっても、勧誘してくるわけじゃないんだから。」
まずは、刹那に確認してこい、と、親猫は命じただけだ。だから、その場で、組織への参加要請はしない。再始動までに、刹那が決めたら、そうなるという段階だ。実際問題として、ロックオンの復帰は難しいのだから、その代わりは必要だ。ヴェーダが使えない組織としては、その人選も大変なことになるだろう。その前提があったから、ロックオンも、わざわざ、自分の肉親を推薦したのだ。
大量のチョコレートの消費方法というものは・・・と、考えていたら、八戒が、いいことを教えてくれた。
「店の売れ残りのフルーツなんかも処分できるので、一石二鳥です。」
「なるほど、さすが、八戒さん。」
「いえ、毎年やってるんですよ。そうでもしないと消化できませんからね。」
ホストに対する贈り物は、本来なら、目玉が飛び出そうな高額商品なんてものが普通だが、ここでは、そういう贈り物は禁止にしている。クリスマスでもバレンタインでも、兎に角、ホストに対する贈り物としては、食べ物のみと限定しているのだ。そうしないと、とてつもないものが持ち込まれそうで怖い。常連や上得意は、みな、一様にセレブな方ばかりだからだ。
今回は、バレンタインだったからチョコレートだ。自分で持ち帰って食べられるぐらいなら、そうしてもらっているが、キラとトダカだけは別格なので、店で消費するようにしている。専門店が開けそうなほど集まる。キラもすごいが、親衛隊のあるトダカも生半可な量ではない。ケーキに混ぜたり、アイスクリームのトッピングしたぐらいでは、減らない。
「チョコフォンデュにするには、ウイスキーボンボンみたいなアルコールの入っているものは抜かないといけないので、それなりに手間ですが、お願いしてもいいですか? ロックオン。」
「そういうことなら喜んで。」
「じゃあ、三月に入ったらやりましょう。そのつもりでいてください。」
一端、チョコレートを視界から外してしまえば、また食べる気にもなる。だから、十日ほど後で、それはやることにした。溜まっていた経理の仕事をやりつつ、『吉祥富貴』のママとチーママの秘密会談は終わった。ちらりとカレンダーを見て、ロックオンは、はあ、と息を吐く。
「なんですか? 」
「ああ、いや、なんでも。」
「でも、ここのところ、よく溜め息をついてますよね? ロックオン。刹那君が何か? 」
作品名:こらぼでほすと アッシー11 作家名:篠義