こらぼでほすと アッシー12
「俺は、おでんのほうが好みだねぇ。レイ、適当に頼む。」
鷹も、おでんの人らしく、ぺろっと舌なめずりしている。
「あっさりして、日本酒に合うのは、関東煮のほうだと、俺は思うんだがね、鷹さん。」
「いや、なんかさ、あっさりしすぎてインパクトがないだろ? 」
「そうかなあ。」
じじいーずの二人は、早々にコップ酒を手に議論しているのだが、その横手から現れたハイネに、げっっと叫んだ。
「おまえ、何をつけるつもりだ? 」
「この邪道好きめ。」
「俺は、ミソダレ派なんだよ。いいだろ? 」
さらに、混乱させるようなハイネに、ロックオンが首を傾げる。ミソをつけて、あむあむと食べているハイネは、その様子に微笑んだ。
「関東煮とおでんの中間に、ミソおでんというものが存在するんだよ、ママ。」
「そんな特異なもんを一緒にすんなっっ。」
と、コロをがっついているシンが叫ぶ。
「こんにゃくは、これだっっ。これが美味いんだっっ。お子ちゃまにはわからんだろうがな。後は黒ハンペンなんだけど、これが入手しづらくてなあ。」
「ハイネ、それ、おでん粉かけるバージョンだろ? あれは好みが分かれるぞ。」
「俺は、あれ、苦手だ。臭い。」
「日本酒には合うんだけどなあ。」
「シンは、お子ちゃまだからなあ。」
「うっせーよ、あんたらっっ。」
わいわいと鍋の周りで議論は盛り上がっている。それは、なかなか微笑ましい
光景だ。というか、みるみるうちに中身の具材は減っていく。レイが、さっさかと皿に大根だのこんにゃくだのゴボ天だのという定番を盛り付ける。
「適当に盛り合わせました。」
「ありがとう、レイ。俺、どっちのほうを作ればいいんだろ? 」
寺で作る場合、どれが本命なのか、と、尋ねたら、悟空が、「関東煮っっ」と叫んで寄越した。
「ですが、トダカ家はおでんですね。」
さらに、レイが反論する。そうだそうだとシンも加勢するので、思わず笑ってしまった。どっちのも作ることになりそうだ。
「基本は同じですから、入れるものだけですよ、ロックオン。ハイネのは特殊なんで、あれだけは違います。」
「今度、入れるものを教えてください、八戒さん。」
「いや、いっそのことミックスでいいんじゃないですか? 煮込んで味が染みるものであればいいと思うんで。」
「三蔵さん、好みが五月蝿いので余計なものを入れると食べないでしょ?」
「あーあの鬼畜坊主は、放置しといてください。いちいち、言うことを聞いていたらキリがありません。」
「そうだぞ、ママニャン。三蔵の好みに合わせたら、育ち盛りの悟空には残念な内容になるぜ? 」
三蔵は、しっかりと煮込まれた大根とかこんにゃくなんかがお好みだが、悟空には栄養が足りないなんてことになる。がっつりのスジ肉とかタマゴとか、そういうものを大量に放り込まないと、悟空は満腹しない。
「ああ、そうか。」
「まあ、僕らもいただきましょう。この匂いは、お腹が空きます。」
悟浄が運んできたおでんを前にして、八戒も箸を持ち上げる。ほくほくといい色に煮えた大根に、辛子を少し乗せて口に運ぶ。ほろりと大根がいい具合に口の中で溶けるような味わいだ。ひとつの皿から、悟浄も箸で取り上げて、口に含む。こちらは、練り物のウズラ入りだ。
「あービール飲みてぇー。」
「悟浄、仕事前ですよ? 」
「あそこのじじいーずどもに注意しろよ、八戒。コップ酒だぞ? あいつら。」
「あそこはザル軍団ですから構いませんよ。」
すいすい水みたいな勢いで、じじいーずたちはコップを空けているが、酔っている様子は無い。それに、指名がないから、酒臭くても問題はない。本日のご指名は、年少組がメインだから、サブで、ハイネと悟浄という陣容になっている。だから、八戒は亭主の飲酒は止めている。
「トダカさんと三蔵さんにも運びましょうか? 」
なぜか、この騒ぎに、そのふたりは参加していない。トダカはカウンターで待機しているし、坊主も定番のカウンターのスツールで飲んでいる。せっかくなのに、と、思っていたら、「もう運んであります。」 と、アスランが声をかけた。
「え? 運んじゃったんですか? アスラン。」
「大丈夫ですよ、八戒さん。トダカさんが、三蔵さんにウーロン茶を渡してましたから。」
さすがに、本格的に飲まれたらマズイから、トダカも、酒ではなく、ノンアルコールを用意したらしい。そうでないと、飲んでトダカを口説くのは時間の問題だ。
「ママ、なんか欲しいものない? 」
唐突に、ハイネがミソダレこんにゃくを食べつつ切り出す。
「え? 」
「なんか、今、欲しいなあってもの。」
「欲しいもの? なんなんだよ? ハイネ。」
「いや、おでんで心も温まったので、愛しのママに贈り物したいと思っただけ。なんでもいいぜ? 今、俺、とても心が広いから。」
「酔ってるな? 仕事なんだから、もう飲むな。」
「まあまあまあまあ、いいじゃない。ほら、言ってみろって。」
酔っ払いの絡みに、真面目に答えたところで意味は無い。それに、これといって欲しいものなんて、思い浮かばない。
「欲しいものねぇーなんもないなあ。」
「なんかあるだろ? 靴とか服とかアクセサリーとか花とか・・・」
「だから、俺にホストトークかますなってーんだよ。」
「まあ、いいじゃないか、ママ。どーんっと高いものでもねだってやれよ。ハイネが酔いから覚めても、俺たちが証言してやるからさ。」
スジ肉をこりこりと食べつつ鷹もやってきて、騒ぐ。酔ってないので、ハイネの絡みを楽しんでいる風情だ。
「高いもの? と、言われても、俺、クルマ禁止だし・・・ライフルあっても撃てないし・・・高いもの? 高いもの?・・・うーん。」
「なぜ、そういうものしか思い浮かばないかなあ。もうちょっとオシャレなものってないのか? 」
「そうだぜ、ママニャン。」
そう言われても、生活全般に、これといって不足しているものがない。仕事着は支給されているし、生活費は足りている。貧乏性庶民派に高いものなんていうのが無理な話だ。
「あーハンドミキサー欲しいなあ。泡立てるのって、力使うんだよなあ。トダカさんの晩酌用に綺麗なガラスのコップってーのもいいな。」
「「「「「はい?」」」」
「図書カードなら、便利だけど、高額でもないか。いや、結構高いかな? 」
「「「「はあ? 」」」」
「うちのホットプレート、もうひとつあったら便利だな。うん、ホットプレートは高額。」
「「「「おーい? 」」」」
涙が滲みそうになる庶民派らしさに、誰もがツッコミだ。そこじゃないだろうと、代表してハイネがツッコむ。
「おまえのもの限定で。なんで、俺が、寺のホットプレートを買わなきゃならないんだよ。」
「でも、使うのは俺だぜ? ハイネ。」
「そうじゃねぇーよっっ。」
「おまえさん、とりあえず水飲んで酔いを醒ませよ、ハイネ。お客様の前に、そんな酔っ払いはマズイだろ? 」
立ち上がって厨房に水を貰いに行ったロックオンの背中を見送って、その場のものは全員で大笑いだ。ハイネもザルで酔わない。酔ったフリで、贈るものを尋ねていただけだ。当人の希望するものを、と、思ったのに、見事にボケられてしまった。
作品名:こらぼでほすと アッシー12 作家名:篠義