こらぼでほすと アッシー12
「ひひひひひ・・・・ダメだ。死ぬ。笑い死ぬ。」
「天然すっとぼけも、ここまで来ると天晴れだな? 」
「つまり、ハンドミキサーってことですかね? 」
「それ、高額か? 八戒。」
「でも、ママが欲しいものって・・・俺たちのためのものですよね? 」
ハンドミキサーは、お菓子作りの機材だ。年少組のために作るのに必要なだけで、ロックオンのためとは言いがたい。トダカのコップもホットプレートもしかりだ。唯一、ロックオン個人が使えるものと言うことで、シンはレイに尋ねる。
「図書カードなら・・・なあ、レイ。俺ら、それにしようか? 」
「ああ、そうだな。ちょっと味気ないけど。」
シンたちの予算枠に該当しているのが、そこいらだから、それにするか、と、頷き合う。すぐに、ロックオンは水を運んできたので、その話題は沈黙する。
「はい、虎さん、鷹さん、そっちも飲んでください。口臭のために、ミントを混ぜましたから。ハイネ、おまえさんは牛乳二杯だっっ。」
そろそろ時間ですよ、と、強制的に飲ませているロックオンに、ハイネが苦笑する。
「やっぱ、おまえさんが嫁に欲しいな。」
「うるせぇーよ、酔っ払い。俺は、三蔵さんとこに貰われたから無理っつーてんだろうがっっ。」
「一緒にプラントで暮らそうぜ? 」
「行かねぇーよ。ほら、もう一杯。」
これは、こちらで考えるしかないな、と、八戒たちも、こっそり苦笑する。刹那も大概だが、親猫も大概だと判明した。欲しいものが、低レベルにしか思い浮かばないなんて、逆に張り切ってしまうではないか。
「純白のウェディングドレスを着て、俺色に染まってくれ。」
「しっかりしろよっっ? 俺が、ドレスっておかしいだろ? 」
「いや、似合いそうだから。」
「無理。虎さん、これ、どうしましょう? 」
どんどん口説いてくるハイネに、ロックオンも苦笑して、虎に助けを求めた。虎のほうも大笑いだ。ちろりと、隣の鷹に視線を流す。
「俺が結婚してなきゃ立候補するんだがなあ。」
「俺もなあ。恋人はいいんだが、女房は間に合ってるんでなあ。」
「いらねぇーよっっ。あんたらも、いい加減にして準備しろっっ。」
「てか、ママは三蔵の女房だから、みんな、勝手に取ろうとすんな。ハイネ、それ以上に口説いたらパンチな? 」
「俺は、一応、三蔵さん公認の間男なんだけどな? 悟空。」
「ママを困らせるのは反則。刹那の代わりに、お仕置きだかんな。」
ぺしっとハイネの頭を叩いて、悟空がロックオンの前に出てくる。それをきっかけにして、アスランが、「そろそろ準備してください。」 と、声をかける。サブは玄関でお迎えが基本だから、悟浄とハイネが、服を調えて事務室から出て行く。いきなり仕事の顔になるのが、さすが、プロだ。
「じゃあ、僕らも行こうか? ママ、後でねー。」
大明神様も、アスランに服を整えてもらうと、手を振って事務室から出て行く。その後に、シンとレイ、悟空もついていく。一瞬にして静かになった事務室には、虎と鷹、八戒だけが残っているが、虎もバックヤードの手伝いに赴く。今日は、ダコスタがいないから、ウエイターを担当だ。やれやれと置き去りにされている皿をロックオンと八戒が片付けにかかる。鍋の中身は、ほとんど綺麗に無くなっているのが、凄まじい食べっぷりだったのを如実に物語っていた。
「洗い物してきます。」
片付けた食器を持ち上げて、ロックオンは厨房に消えた。それを見送って、鷹と八戒は目を合わせて笑った。
「なんなんだろうな? あの庶民派は。」
「でも、いきなり尋ねられたら、僕も、ああなりそうですけどね。」
「おまえさんはいいじゃないか。何も言わなくても伝わる以心伝心な亭主があるからな。」
「あはははは・・・鷹さんにもいらっしゃるでしょ? 男前な奥様が。」
「おまえさんとこのような伝わり具合じゃないけどな。」
どっちもパートナーがあるので、好みや欲しがりそうなものというのが、なんとなく伝わる相手がある。
「さて、どうします? 」
「せつニャンの頭にリボンでいいんじゃないか? それも一ヶ月も傍にいるというオプション付きだ。これに勝るものはないな。」
大人組は、物品で渡すつもりは、元からなかった。どうすれば、喜ぶかぐらいのことを考えていたからだ。だから、黒子猫でいいというのは結論が出ている。黒子猫とのんびりと過ごすのが、何よりの贈り物だ。
「軟禁するほどでもないし、マンションへ? 」
「小難しい話だけは、先にさせないとかないとな。どうせ、三蔵さんが呼び戻しちまうだろうけどさ。」
次期マイスター候補の話は、二人きりのほうがいいだろう。他人の居るところでできる話ではないので、その話ができる時間だけはマンションに滞在させるつもりだ。
「マンションのほうを冬仕様に直しておくか。」
「こたつは必要じゃないですか? 正月前に、少し戻っていたから、それなりのことはしてあると思いますが、確か、こたつはいれてないです。」
「ああ、こたつは手配してないぞ。」
ウエイター仕様の黒ベストに着替えた虎が事務室に顔を出す。どうせ、手配は虎の仕事だ。
「虎さん、こたつ、明日までになんとかなるかい? 」
「その程度は楽勝だ。・・・・それと鷹さん、紫子猫から暗号通信でリクエストがあった。」
ラボのほうへティエリアから依頼のための暗号通信が送られてきたので、ダコスタから、その詳細が転送されてきたらしい。
「花をたくさん贈って欲しいんだそうだ。誕生日の定番ものを、とな。」
せめて何か代わりに用意してもらおうと、ティエリアがフェルトに尋ねたら、そういう答えだったらしい。だから、贈り主はティエリアとアレルヤハレルヤ、フェルトの連名になっている。
「それは、フェルトちゃんの意見なんでしょうね。彼女らしいな。」
女性らしい心遣いだな、と、八戒は微笑む。ちゃんと、アレルヤたちの名前まで連名にしているのが、なんとも優しい気持ちだ。
「花のほうは頼めるか? 鷹さん。」
「お任せアレ。お兄さんが、ママに相応しい花束と花かごを用意しよう。」
芝居じみた態度で鷹が引き受ける。形に残るものでなくていい。その一日のために贈られたものが、記憶の中に残るものであればいいのだ。花なら、それに一番相応しいだろう。
アイルランドは、晴天の少ない地域だ。親猫に頼まれていた用事を片付ける時も小雨だった。それから、随時送られてきていたデータを元にして、次期マイスター候補とも接触した。
「俺のおごりだ。」
同じ顔で紡がれた言葉に、ドキッとしたが、それだけだ。確かに容姿はそっくりだが、漂っている雰囲気が、まったく違っていた。
・・・・やはり、俺は間違わない・・・・
親猫が、言っていたことに、内心で反論しつつ、おごられたミルクを口に含んだ。
もし、彼を組織に勧誘したら、
もし、そこで、また同じように暴走されたら、
親猫の唯一の肉親を消してしまうことを考えて、溜め息が零れた。それでもいい、と、親猫は言ったが、それはできない。だって、親猫に残っている最後の肉親だ。それしかいないのだから、同じように亡くさせるなんて、刹那には許せることではない。
作品名:こらぼでほすと アッシー12 作家名:篠義