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こうやって過ぎていく街から

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 紀田正臣は、暗い自室で、テーブルの上の携帯をじっと見つめていた。
 ぼうっとしていたが、何も考えていないわけではない。
 折原臨也のこと、そして親友である竜ヶ峰帝人のことに思いを馳せていた。
 臨也が消えてしまったことに、正臣はすぐに気付かなかった。会いたい人間でも、息災を喜ぶような人間でもない。
 気づいた時には、臨也が消えてすでに数か月が経っていて。
 気づいた時には、帝人はもうおかしくなっていた。
 もう、四年は前の話になるだろう。帝人は夜の街をふらふらと歩き回り、時折、常軌を逸したような行動にでることもあった。とても目を離せる状態ではなかった。
 正臣も、帝人のもう一人の親友である園原杏里も、岸谷新羅やセルティ・ストゥルルソンや、あの平和島静雄ですら、帝人を心配して、臨也のことを探したけどどうやっても臨也を見つけることができなかったのだ。
 だから、もう、臨也は死んでいるのだろう。静かに、どこかに、葬られているのだろうと、誰も言わなかったが、誰もがそう考えていたはずだ。
 その事実は臨也を知る人間にとって喜ぶべきものだったが、帝人だけは、まるで廃人のようだった。
 情報屋になる――と、帝人が言い始めた時。
 正臣も、杏里も、新羅も、セルティも、止めなかった。静雄だけはやめておけと一言いったが、それも強い否定ではなかったように思う。
 情報屋になることで、帝人が生きていけるならそれもいい、最初は誰もがそう考えた。
 帝人が何度も死にかけるまでは。
 帝人が今、生きていることは奇跡に近い。彼女の治療に当たった新羅をして言わしめた奇跡。もしかしたら、それは呪いだったのかもしれないが。

 
 ぱち、と蛍光灯が一度点滅して、浩々とした灯りを落とす。
 正臣は瞬きをした。
 振り返ると、部屋の入口に恋人である沙樹が立っている。
「竜ヶ峰さんのこと、考えてた?」
 沙樹はほんのりと笑って、正臣に寄り添うように座る。
「……いや、ラブ&ピースについて考えてた」
「嘘。正臣がそんな顔をするときは、竜ヶ峰さんのことを考えてる時だよ」
 すべてお見通し、という目をして正臣を見つめる沙樹に苦笑して、くっついている体に体重を掛けた。細い、ぽきりと折れてしまいそうな体をして、沙樹は正臣よりもよっぽど強い。
「なにかあったの?」
「なんも。かわりねーよ、いつも通り」
「そう」
 沙樹は何も言わない。
 帝人のことも、臨也のことも、正臣のことも、何も言わない。
 言わないだけで、思うところはあるのだろうが。
「正臣は、正臣のやりたいことをやればいいんだよ」
「なにそれ?自己チュー?俺に自己チューになれって言ってる?」
「我慢しなくていいってこと」
「我慢なんてしてねーよ。俺はいつでもストレスフリーの超ハッピーだっつーの」
「超ハッピーな人の顔じゃないのは、私の気のせいかな?」
「気のせい気のせい。沙樹、目疲れてんじゃね?」
「そういうことにしておいてあげよう」
 ふふ、と沙樹が笑う。
 その笑顔に、ぐぅ、と胸が詰まった。
 正臣は、沙樹の体を引き寄せて。抱きしめる。「痛いよ、正臣」
「やめさせてーんだ。情報屋。あいついつか、死んじまう」
「やめさせたら、竜ヶ峰さんはすぐにでも死んでしまうかもね」
「……それが一番の問題だよなあ……」
「ラブ&ピース」
「ん?」
「なればいいね」
「ん……」
「みんなが幸せになればいいのにね」
「うん……」
「臨也さんは、死んでからもみんなをわたわたさせるの。あの人らしいね」
「……沙樹は、悲しくないのか?」
 沙樹は元々、臨也のことを慕っていた。臨也という神様の、信者のようであったと言ってもいい。彼の命令であれば、死んでしまえるぐらいには、臨也を信奉していたはずだ。
「少しはね、寂しいよ。臨也さんは私の命の恩人だもの。でも、私には正臣がいるから」
「俺がいたら、臨也さんはいらない?」
「いなくても、生きてはいけるね」
「そっか……」
「うん」
「ここだけでもラブ&ピースにしとくか」
「なんだか申し訳ないね」
「明日、帝人んとこ行ってくるわ」
「そう」
「喧嘩したらどうしよう?」
「仲直りすればいいよ」
「できなかったら?」
「やり直せないことなんて、ないんだよ正臣。知ってるでしょう?」
「あーもう、沙樹愛してるー」
「私も愛してるよ」
「ラブ&ピース!」
「ラブ&ピースだね」
 ぎゅうぎゅう沙樹を抱きしめながら、正臣はやっぱり、臨也と帝人のことを考える。
 友人の幸せについて考える。
 もしかしたら今の状態が、臨也が死んでいるのか死んでいないのかわからない今の状態が、帝人にとって一番の幸福なのかもしれない。
 帝人が、臨也が死んだことを知って。
 そんな情報を掴んで、そしてその後、どうするのか。
 考えると怖かった。
 恐怖を振り払うように、正臣は沙樹を抱きしめ続けた。