こうやって過ぎていく街から
じゃあお腹すいたらいつでも注文するとイイヨー、とサイモンは笑って下がった。
「何もなかったわけないだろ、帝人」
沈黙する帝人に、正臣はテーブルに身を乗り出して、続ける。
「もしかして臨也さん、見つかったのか?」
「見つからない……」
「諦めるのか?」
「諦めてほしかったんでしょ?」
「やったらネガティブだなおい」
「ネガティブにもなるよ……もう四年だもん」
「四年だけど!四年だけども!」
「人の不幸は見飽きたし、探し続けるのも、もう疲れたんだ」
「そりゃ……情報屋やめてくれたら俺も安心だけどさあ……あー、なんつったらいいんだろうなー」
「何も言わないで正臣」
「え、根本から否定!?」
「今の依頼が終わったらやめる」
「決めたのか?」
「うん」
「あー……」
正臣はぐしゃぐしゃと髪を混ぜ返した。
ほとんど冷たいお茶を飲んでいると、とん、とテーブルの上にバニラアイスのせられたガラスの器が置かれた。
「疲れた時には甘いものヨー。奢りヨー。ほかのお客さんには内緒ネ」
とサイモンがにこにこ笑う。
「情報屋やめたら、うちきたらいいよミカド。ミカド幸せ、サイモン幸せ、キダも幸せみんな幸せチョウハッピー。お腹一杯幸せいっぱい甘いものあればもっとハッピーこれ世界の決まりよ〜」
「ありがとうございますサイモンさん」
「俺のは?サイモン俺のは?」
「メニュー見るといいよキダ〜。甘いものいっぱいよ〜」
「俺には奢ってくれねえの!?」
「チッチッチッ。ちっちゃい男は嫌われルヨ、キダ。男はロシアの海のごとく大きくアレー。キダの心が大きくなりますよーにー」
「えぇぇぇぇ〜〜〜〜〜。なんだよそれー贔屓だ贔屓!」
「女の子贔屓する、これ当然!」
「大好きですサイモンさん」
「これぞ相思相愛ね!」
バニラアイスをつつく帝人をちらりと見て、正臣はため息をついた。
なにもないなら、いい。帝人の言う通り、ただ当てどもなく人を探すことに疲れただけなら、いい。
けれど、そうでなかったら?
そうでなかった時が一番怖い。
四年。
四年だ。
四年も、帝人はただひたすらに――そう口にすることはなかったが――臨也を探し続けてきたのだ。
何かあったはずだ。
正臣は注意深く、帝人を見つめる。
やめようと、思ったなにかが、帝人の中であったはずだ。
(油断、できないな……)
帝人が全てに疲れたというのなら、そう思わせるだけの何かが、起こったはずなのだから――。
作品名:こうやって過ぎていく街から 作家名:すがたみ