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こうやって過ぎていく街から

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 池袋。
 毒々しいネオンの届かない、暗がりで。
 自身すら闇で染め上げて、運び屋は情報屋と対峙した。
【それで、私に依頼とは?】
 PDAの灯りが、闇を仄かに照らし出す。その陰影が、情報屋の姿を浮かび上がらせる。
「運んで欲しいんです」
 情報屋は、フードの奥でくぐもった声を上げた。
「ただ、私はそれを持っていません。とある場所から、運び出してほしいものがあるんです。もしかしたら、あなたの仕事ではないのかもしれませんが」
 わずかな笑みは、感じ取る前に消え去る。
「運ぶというよりは、盗むという方が正しいかもしれませんね」
【犯罪はしないぞ】
「わかっています」
【なら】
「請けていただけないのなら、私がするまでです」
【……脅しと一緒だな。やってやろうじゃないか。ただし、今回限りだ】
「ありがとうございます。下調べは完璧です。この通り動いていただければ、問題はありません」
【わかった】
 運び屋は差し出された茶封筒を受け取り、バイクの上に置く。すぅ、と影が動いて、それはもう、目視することができない。
【やたらとくっつけているな】
 その言葉に情報屋は暗がりに目を向け、肩を竦めて笑った。
「人気者なもので」
【倒すか?】
「必要ありませんよ。そのうち消えるでしょう。嫌でもね」
【君は年々、あいつに似てくるな】
「嫌いですか?」
【私が君を嫌うことはない、きっと永遠に】
「私もですよ」
 情報屋が笑う。その笑みを掻き消すように、バイクが唸りを上げた。運び屋が触れていないのに、だ。それだけで、こちらを窺う誰か達は気配を乱した。
「仕事でもないことをさせられて、彼らも気の毒に」
【思ってもいないことを】
 運び屋はバイクにまたがって、ぽんぽんと後ろのシートを叩いた。乗れ、ということなのだろう。
 ありがたく、情報屋は運び屋の後ろに座って、その腹部に腕を回す。
 首なしライダーの操るバイクが、到底バイクとは思えないような嘶きを上げて、疾走する。風でコートが翻る。
 運び屋は、まるで見せつけるように華麗なバイク捌き披露し、段差や壁などものともせずに疾駆した。
 浮遊感。擬似的な無重力。この手を離せばすべてが終わる。そんな考えなどお見通しとでもいうように、運び屋の手が情報屋の腕を押さえつけた。片手運転は危ないですよ、などと軽口が叩けるような状況ではない。風が、空気が、絶え間なく顔をなぶるのだ。呼吸すら困難なほど。
 ギャギャギャ、とタイヤをアスファルトに溶かしながら、運び屋がバイクを止める。そこは情報屋の事務所の前だ。
【仕事は完遂する。必ずな】
「頼もしい限りですね」
【だから、君は君の仕事をするんだ。あまり心配はかけるなよ】
 PDAに打ち込まれた文字に、情報屋はフードの奥で苦笑した。四木といい運び屋といい、いったいいつまでひよっこ扱いするつもりなのか。
「わかってますよ、セルティさん」
【なら、いい】
 バイクは音もなく走り始める。
 時折、思い出したように嘶きながら。