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こうやって過ぎていく街から

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「しかし、しおらしい臨也とかほんと気持ち悪いよ。敬語とか話さないでくれないかな、鳥肌立つから」
「俺ってホント、どんな人間だったんだ……?」
 最悪な人間だった、というのは、真実なのだろうが実感がない。帝人たちが語る人物は、本当に自分なのだろうか?
「クソヤロウだったよ」
【クソヤロウだったな】
 新羅とセルティからほぼ同時に言われ、ため息を吐き出す。
「あなたがクソヤロウだったことは事実ですが、一部の人たちからは絶大な人気をはくしていたんですよ。それこそ神様みたいに」
「それって、教祖ってこと?」
「過言ではありません」
「知れば知るほど……気持ちが複雑になっていく……」
「まあ、それがあなたの生み出した業だと思って諦めてください臨也さん」
「はぁ……俺って……」
「最低最悪な情報屋で、僕の上司です。っと、」
 帝人はポケットから携帯を出した。少し顔を顰めて「すいません、ちょっと外します」
 と、部屋から出ていく。
 帝人という知り合いがいない今、ほぼ初対面の新羅とセルティと共に残されて少しだけ気詰まりな沈黙が落ちた。
 臨也はごほん、と咳払いする。
「……竜ヶ峰さんの手、傷だらけだったのは俺のせいかな……?」
 カチカチカチ、とセルティがPDAを操作する。
【帝人君は昨夜、お前のせいで大変な怪我をした。本当は腕を吊っていなければいけないのに、お前のためにそれもしない。感謝しろ】
「ああ、言っちゃったセルティ。口止めされてたのに」
【なんで口止めする必要がある。こいつのせいだ。私は包み隠さず全てを話してこいつの罪悪感をちくちくと攻撃していく】
「意地悪セルティ!しかし僕はそんなセルティすら愛している!ああ、愛しているともセルティらぶっ!あ、ちなみに、【人ラブ!】っていうのが臨也の口癖だから。本当君ってキモいよね」
 うっとりとした赤い顔で身悶える新羅など意に介さず、セルティは再び臨也にPDAを向ける。
【腕だけじゃない。帝人君は体中傷だらけだ。お前のせいで】
「臨也のせいじゃないだろう?帝人君が自分で情報屋になるって決めたんだから」
【間接的には臨也のせいだ。私は何度、妄想でお前を刺殺したか知れない】
「私的な恨み言は今はなしにしようよセルティ。臨也だって何も四年間――厳密にいえば三年八か月間、面白おかしく生きていたわけじゃない。わかってるだろう?」
【それはそうだけど……でも許せないんだ……。私、元々こいつのこと嫌いだし……】
「気持ちはわかる、痛いほどわかるよセルティ……!ああ、君はなんて心優しい妖精なんだ!愛してる!この愛の前には世界もひれ伏すだろうセルティ!僕だけの妖精!僕の愛!僕の全て僕のぐふぁっ!」
【やめろ、恥ずかしい】
 セルティは新羅の鳩尾に拳を入れながらも、照れたようにもじもじとしている。
「新羅さん、」
「新羅って呼んでくれるかな気持ち悪い。で、なに?」
「あー、新羅とセルティさんって、」
【セルティと呼べ気持ち悪い。なんだ】
「…………新羅とセルティは、恋人同士なのか?」
 臨也にしてみれば二人は初対面なのだから、敬称を付けるのも敬語で話すのも当然なのだが、ふたりはそうでもないらしい。攻撃的な二人に、臨也は少しだけ落ち込んだ。
「恋人っていうか、夫婦だよ」
【私には戸籍がないから、内縁だけどな】
「内縁だろうがなんだろうがセルティは僕の奥さんさ!あ、結婚式の写真見る?見る?遅いけどご祝儀くれてもいいよ」
【お前からものをもらうのは癪だが、もらえるものはもらう】
「ちゃっかりセルティ、君はいい奥さんだ!」
【よせ】
 人目もはばからずいちゃいちゃし始める二人を見つめながら「夫婦……」と臨也は呟いた。種族が違うとか(人種どころの話じゃない)、頭がなくてもいいのかとか、訊いてみたい気はしたが言ったところで新羅はのろけ、セルティはばっさりときつく返してくるだろうから、訊かなかった。
 そんなものが障害になるようなら、きっと二人は夫婦にはならなかっただろう。
「……俺と竜ヶ峰さんは、どんな関係だった?」
 新羅とセルティは顔を見合わせた。もっとも、セルティは見合わせるべき顔も目もなかったのだが。
【情報屋とその部下】
「以上の何かはあったんじゃないかと思うけどね。君がまだ記憶があるころ、僕たちもそれぞれに同じ質問をしたけど、二人とも上司、部下、としか言わなかったよ」
【本当はどうだったのかは誰にもわからない。少なくとも、知っていたはずだった一人の記憶は今失われている】
「そうか……」
 ぐったりと目を瞑る臨也に、新羅は「疲れたかい?」と優しげに微笑んだ。少し意外だ。
「いや、もっと話が聞きたい」
「気になるのもじっとしていられないのもわかるけどね、焦りは禁物だよ。過去馴染み深かったものにじっくりと関わって、ゆっくり思い出せばいいさ」
【サポートはする。帝人君のためにな】
「ちょっと眠りなよ臨也。酒も抜けてないだろう?何か食べるものを持ってこようか?」
「食欲がないから」
「そうか。じゃあ、そろそろ僕たちはお暇するよ。携帯の番号を――君、携帯持ってる?」
「え、ああ……どこにやったかな……」
 携帯は持っていたが、今はどこにあるのかわからない。もぞもぞと枕もとをさぐっていると【これじゃないか?】とセルティがベッドサイドのテーブルから携帯を取り上げた。手を使わず。細長い、柔軟性のある影のようなものがセルティの手から伸びていて、それが携帯に巻きつきふわふわと携帯を宙に浮かせていた。
「それ……なに?」
【影】
「影って……」
【それ以上は私も知らない。便利だろう?】
「まあ……」
 臨也が伸ばした手の上に、ぽとりと携帯が落とされる。
 電源は切られていた。
「うわあ……」
 電源を入れると、舞い込んでくるメールと不在着信。その数、それぞれ合わせれ50件。差出人は全て春香だ。
「恋人?」
 新羅がしれっとした様子で訊いてくるが、臨也は頭を振った。
「恩人だよ。で、携帯の番号?」
「ああ。番号と、念のためアドレスも教えておくよ。セルティのは教えないからね!」
「ああ、うん。いいよ」
 番号とアドレスを交換すると、よいしょ、と新羅は腰を上げた。
「じゃあ、僕達は帰るよ」
「ありがとう、新羅、セルティ」
【お前から礼を言われると気持ちが悪いな】
「歪みない気持ち悪さだよ。ああ、それとこれはお願いなんだけど」
 新羅は困ったように笑った。
「彼女のこと、竜ヶ峰さんじゃなくて帝人君て呼んであげてくれるかい?きっと喜ぶから」
「みかどくん……」
「君はそう呼んでいたよ。前はね」
 それじゃあ、お大事に。新羅は手を振って、部屋から出て行った。
 急に静かになった気がする。
 
 四年。
 
 新羅の言葉を引用するなら、三年八か月。

 死に物狂いで探していた記憶。
 自分の情報。
 あんなに取り戻したいと思っていたのに、話をきけばきくほど、自分という人間がわからなくなる。わかったことなんてせいぜい、自分が最低最悪な人間だったということだけだ。
 真新しい情報は頭を駆け巡り、ひとつもものにできないまま臨也を苦しめるだけだった。