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こうやって過ぎていく街から

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「イザ兄さあ、静雄さんに会ったら気を付けなよ?ぷちっと殺されちゃうかもしれないし」
「その辺は、静雄さんにはちゃんと話しておくよ。さすがに記憶喪失の臨也さんを殺そうとは……しなければいいね……うん……」
「その、静雄っていうのはどういう人なの?」
 帝人は参ったように九瑠璃と舞流の顔を見た。双子は笑ったまま小首を傾げる。
「……あなたがその半生を賭してこの世から抹殺しようとしていた人です。あなたの高校時代のクラスメイトですね」
「まっ……え?なに?」
 聞き違いか?顔を顰めた臨也に、帝人は弱り果てたように眉を下げた。
「ええっと……説明しようとすると難しいな……。あなたと静雄さんは、永遠の宿敵と言えばいいか……。とにかく、顔を突き合わせるたびに殺し合ってました。そのたびに標識やらコンビニのごみ箱やら自動販売機が被害にあっていました」
「どうやったら被害がでるの、そんなものに」
「投げるんですよ」
「は?」
「静雄さんは、大型バイクや自動販売機ぐらいなら難なく持ち上げて投げることができるくらいの怪力の持ち主なんです。あなたは静雄さんを喋るアイアンゴーレムと評していました」
「いやいやいや、いや、無理だろ」
「見るまでは信じられませんよね。でも、本当ですよ。キレなければ普通の素敵な男の人ですが、一度キレると手が付けられません。このマンションなんて簡単に倒壊しますよ。だから、あまり刺激しないでくださいね。といっても、あなたの顔を見るだけで静雄さんはキレるでしょうから、難しいかもしれませんが」
「あー。善処する」
「イザ兄ってほんと最低ヤロウだよ!」
「肯……」
「さて、そうと決まればみんなに声を掛けなくちゃ!」
「正臣と園原さんと……静雄さんは僕が説得するよ。新羅さんとセルティさんも呼ぼう」
「じゃあ私たちは青葉君とかワゴン組とかサイモンさん達を誘ってみるね!」
「うん、お願いね」
「まっかせてよ!じゃあさっそく行ってきま〜す!」
「頑(がん)張(ばるね)……」
「イザ兄と帝人さんばいば〜い!」
「……再会(またあいましょう)」
「気を付けてね二人とも」
 あっさりと帰っていく双子を見送りながら、臨也は肩を落としてため息をついた。
「なんていうか……独特な妹たちだね……」
「あれで、あなたのことをずっと心配していたんですよふたりとも」
「うん……。ああ、俺って謝らなくちゃいけない人がいっぱいいるんじゃないか?」
「それしようと思ったら、あなた【ごめんなさい】以外の言葉言えなくなりますよ?」
「そんなにか……」
「そんなにです」
「はぁ…………」
「まあまあ、そんなに落ち込んだって仕方がないでしょう?」
 ぽんぽん、と肩を叩かれて、臨也は迷って、口にした。
「あのさ……」
「はい?」
「青葉君て、誰?」
「青葉君?」
 帝人はきょとん、と繰り返す。
「気になるんですか?」
「や……ちょっと」
「別に、いいですけど。黒沼青葉君は僕の後輩ですよ。あなたの後輩にも当たりますね。高校時代、一緒に悪さした仲です。今は企業起こして、そこでせっせと悪巧みしてますかねえ」
「へえ……俺に似てるって?」
「あなたに?あー、そう……かもしれませんね……ああ、うん、似てます似てます。腹黒くて計算高いところとか。彼の方が友達多いですけど」
「腹黒くて計算高いのに友達が多いだって?俺になくて彼にあるものっていったい……」
「協調性ですかね」
「はっきり言うなあ」
「今更隠したって仕方がないでしょう?」
「まあね。ねえ、帝人君」
「なんですか?」
「教えてくれない?さっき名前があがっていた人たちのこと。一緒に食事をするなら、予備知識は必要だろう?」
 帝人は笑って頷いた。
「ええ、お話ししますよ。いくらでも」