こらぼでほすと アッシー13
トダカと同じ時間に、ロックオンは出勤してきて、何やらご機嫌で、でも、そわそわしつつ、軽食の準備をしている。
「早すぎるだろ? ロックオン。」
「下ごしらえ手伝うから、見て見ぬフリで頼むぜ? 爾燕さん。」
厨房担当の爾燕が店で出す料理の下ごしらえを開始するより早く軽食を作っているというのは、いくらなんでも早いだろうと、爾燕は呆れるのだが、今日、黒子猫が戻るからだとは解っているから苦笑して頷いた。
「じゃあ、タマネギのスライスと白髪ネギと糸生姜頼んでいいか? 」
「おう、お安い御用だ。」
家事万能なロックオンなら、任せても問題はない。たまに、厨房のほうも手伝ってもらっているから、爾燕も気軽に頼んでくる。今日のお客様は、中華のオードブルをご所望だから、そういう細工ものが多い。鳥や果物の形に、野菜を細工切りするのは爾燕にしかできないが、それ以外なら大抵、やってもらえる。
「俺、中華をマスターしたいんだけど、どうかな? 」
「調味料の配合を覚えれば、どうにかなるぞ。」
「それ、レシピってあるのかな? 」
「うーん、もう勘でしかやらないからなあ。俺のやり方を覚えて料理本で確認すりゃいいんじゃないか? いや、おまえの場合は、八戒から教えてもらったほうがいいな。悟空の口は、あっちの味だ。」
どちらも包丁で刻んだり切ったりする作業をしながら、会話をしている。それぐらいのことは、どちらも可能だ。
「八戒さんか・・・確かに、悟空のおかんは八戒さんだもんなあ。」
「いや、ぼちぼち逆転してんだろ? 」
すっかり、寺の女房というのが定着してきた。お陰で八戒も爾燕も寺へ、サルの栄養補給に出向くことは激減している。
「それが、なかなか、三蔵さんの口には合わなくて・・・食べてもらえないんですよ。」
「はあ? おいおい、ロックオン。そこまでしなくてもいいだろ? 三蔵は食わないなら放置しとけ。悟空は食ってんだろ?」
「悟空は食べてくれますけど、薄いらしいんです。料理本の通りだと、どうも違うらしくて。」
亭主の連れ子に気を遣うなんて言葉が、爾燕の脳裏に浮かんでしまう。どこまでも、世話好きおかんな性格であるらしい。
「それならなおさら、八戒だな。一度、作ってもらえばわかるだろう。」
「やっぱりそうですね。」
何度か作ってもらっているのだが、調味料に馴染みが無いので、どこを増やせば、そうなるのかがイマイチ、ロックオンにはわからない。万国共通メニューだが、作るとなると、結構、難儀だ。市販のペーストやルーのようなものを混ぜ合わせれば、それなりのものはできるのだが、坊主はいい顔をしない。やはり、本来の保母さんに指南してもらうのがよさそうだ。
「故郷の料理は作らないのか? 」
「洋食はねぇー三蔵さんが嫌がるので。」
「じゃあ、ちびが帰っても? 」
「マンションにいる時は作ってますよ。あと、別荘でも。刹那の故郷のも、アイシャさんに教わったので、そちらも作ります。」
「俺は、そっちのに興味があるな。レシピあるか? 」
「俺も、適当なんで、今度、こっちで作りましょうか? 爾燕さんなら、食べたらわかるでしょ? 」
「たぶんな。」
「今時分だと、牡蠣のジャガイモスープとかですね。それと基本のアイリッシュシチューとか羊の内臓の煮込みとか。」
「やっぱ、食材からして変るな。」
料理人としては、新しいものは大歓迎だ。店では、基本、中華だが、爾燕は、大概のものは作れる。ただし、地方の特殊なものになると、やはり知らないものが多い。
「うちは、じゃがいもが主食だし、冬はほとんど野菜が取れないから、保存食ちっくなものになるんです。まあ、今は、冬でも生野菜はありますが。」
「俺らのところも、そういう地域があるぞ。そっちだと、唐辛子と山椒で辛味を足して、身体を温める料理が多い。」
麻婆豆腐なんかが代表作だ、と、爾燕が説明すると、なるほど、と、ロックオンも頷く。そうこうしているうちに、店で出すほうの下ごしらえは、あっという間に終わった。後は、双方、自分の担当の仕事になる。
それらをこなしていたら、シンとレイが現れた。まだ、刹那は到着していない。開店時間近くになるんじゃないか、と、シンに言われて、ちょっと、ロックオンの肩が落ちる。
「無事に到着はしたそうですから。ロックオン。」
慰めるように、レイが声をかける。
「ママ、とりあえず、俺ら、腹減った。なんか食べさせて。」
「ごはんは炊き上がったから、バターライスのピラフなんてどうだ? 」
「うん、それでいい。」
はいはい、と、ロックオンが準備を開始する。刹那に食べさせてやるつもりで、オムライスの中身の準備は完了していたのだ。さっと具材と炒めると、バターライスのピラフになる。
開店時間ギリギリに飛び込むようにして、キラたちが現れた。その頃には、準備も終わっていて、スタッフもミーティングを待っている。
「遅くなってすまない、みんな。先に、ミーティングをさせてもらう。」
着替えないままで、アスランが店の予約帳を手にして、ホールで説明を始める。今日は、予約が三組。指名もされているから、時間はかからない。一通りの流れを説明するだけで済んだ。
「ロックオン、刹那と帰ってください。」
無言でぎゅうっとしがみついている青いコートの黒子猫の頭を撫でていたら、いきなり、アスランに命じられた。
「え? 」
「刹那が帰ってきたんだから、そうでしょう? 長旅だったんだから、ゆっくりさせてやらないと。」
「ごはんだけ食べさせてからでもいいか? アスラン。こっちで準備しちまったんだ。」
「ええ、それで構いません。ハイネがアッシーをするんで、帰る時に声をかけてください。」
「俺にもメシ。ママニャン。」
ハイネが、そう言いつつ、バックヤードに向かう。ハイネの指名はないが、ヘルプはあるので着替えるらしい。アスランとキラも、それだけ伝えて、バックヤードへ消える。
「じゃあ、お客様の来店準備をお願いします。」
オープンの掛け声は、八戒が代理で宣言する。今日のお客様は、大人の女性たちなので、あまりはしゃがないように、と、年少組に注意もすることも忘れない。
「きゃうーん、僕もっっ。」
着替える前に、キラも事務室の椅子に座った。先に食べてから、ということらしい。
「いいのか? アスラン。」
「大丈夫です。キラのお客様は、まだ時間があります。俺にもください。」
大量に作るので、オムライスではなくバターライスのピラフだ。刹那のだけ、これをタマゴで包むつもりだったのだが、キラも、「オムオムッッ。」 と、言うので、同じように作った。
「ケチャップとホワイトソースがあるけど? 」
「ケチャップッッ。」
キラは、定番を選択したので、ケチャップの瓶を渡された。刹那のは最初から、ホワイトソースがかかっている。ほかほかのオムライスは、おいしい。誰もが、無言でパクついている。刹那の帰還が予定より遅かったので、軽食を摂っている暇が無かったのだ。刹那にいたっては、昨夜から携帯食料を胃に放り込んだだけだったから、本気で空腹だ。はごはごとオムライスは、見る間になくなっていく。
作品名:こらぼでほすと アッシー13 作家名:篠義