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最愛の人

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 なぜ襲われた自分がこんなことを提案しなければならないのか。
 銀時が謝るのが先だろう。
 そう思うのだが、話をしたいという気持ちが勝った。
「わかった」
 銀時はやはり素っ気なく言い、傘を閉じた。
 それから、納屋に入る。
 入ったあと、銀時が戸を閉めた。
 何気なくしたことだろうが、桂は襲われたときのことを思いだして、少し緊張した。
 雨は見えなくなった。
 けれども、屋根を打ちつける雨音が納屋の中で響いている。
「で、話ってなに」
 銀時が問いかけてきた。
 しかし、桂はその問いに答えられなくて、黙ったままでいる。
 具体的になにか話したいことがあったわけではなかった。
 ただ話がしたかっただけだ。
 しいて挙げるなら、襲ってきたことに対して謝罪を要求したい。だが、銀時に謝る気がないことはわかっているので、言うだけ無駄だろう。
「……そういやさァ」
 しばらくして、沈黙を破ったのは銀時だった。
「ヤツはどーしてるんだ」
「なんのことだ」
「相変わらず、オメーに言い寄ってんのか」
 深野のことを聞かれているのだとわかった。
「……いや」
 否定する。
 おとつい、深野と話をしたときのことが頭によみがえった。
「諦めるよう努力すると言われた」
 ほんとうのことだ。
「へえ」
 銀時は相づちを打った。
 それから、眼を桂のほうに向けた。
「俺ァそんな努力する気はねェけどな」
 真っ直ぐに桂を見て、告げた。
 桂はその視線を受け止め、見返す。
作品名:最愛の人 作家名:hujio