最愛の人
それは残酷なことかも知れないが、想いに応えられない以上はどうしようもなかった。
「だけど、おまえは、違う」
背中を向けて去っていこうとしたときのことを思いだす。
「呼び止めた。おまえだけは、呼び止めた」
「なんで」
銀時が口を開いた。
「なんでだ」
そう、問いを重ねた。
息が詰まる。
知らないと逃げることができれば楽だが、それはゆるされなさそうな状況だ。
「俺と同じ男に、なんて、正直、気持ちが悪いとしか感じられなかった。これまで、だれに対しても。だが、おまえは違ったんだ。そういうふうには感じなかった。いきなり襲ってきたことについては怒りを感じてはいるが、気持ちが悪いとは思っていない」
「それってさァ」
銀時が足を踏みだした。
近づいてくる。
そして、すぐそばまでくると立ち止まった。
「嫌じゃねェってこと?」
その腕があげられ、その手が顔に近づいてきて頬に触れた。
「……ああ」
一瞬迷ったが、うなずく。
嫌悪感は湧かなかった。
しばらく、そのままでいた。
「……できれば、もう一声ほしいんだけど」
「は?」
「……いや、いーわ、やっぱり。さすがにそこまではムリそーだし」
「なんの話だ」
問いかけたが、銀時は答えず、手を頬から離し、自分の首筋にやってボリボリと掻いた。
「あー、まァ、なんとなく状況はわかったし。てか、ソレで間違いねェのかわかんねーけど、あとになって反論するのは認めねーってカンジ」
「だから、なんの話だ」
「自分の言ったことには責任を持てってことだ」
「あたりまえだ。俺は自分の言ったことには責任を持つ」
銀時がなにをぶつくさ言っているのかよくわからないものの、桂はきっぱりと告げた。