最愛の人
からかうように言う。
「昔からな」
気にしてほしくなくて言ったことだ。
けれど、銀時は一瞬遠い眼をした。わずかに眉根が寄っている。
「……そうだな」
気怠げな声でそう返事すると、銀時は眼を閉じた。
身体が弱ると、心も弱ることがある。
昔、風邪をひいた銀時をよく看病していたのは松陽先生だ。
優しい、今はもうこの世にはいない人。
おそらく銀時にとって一番大切な人だ。
思いだすのはつらいだろう。
特に、今は。
「……夕飯は粥でいいか」
桂は話を変えた。
すると。
「デザートにパフェをつけてくれ」
銀時が即座に答えた。
「バカ言うな。梅干しで我慢しろ」
いつものような冗談に、桂はほっとした。
翌日、銀時の熱はまだ下がらなかった。
前日に桂が万事屋に来るまえに医者には診せたようなので、引き続き、定期的に薬を飲ませて、安静にしておくことにする。
昼過ぎに、応接間兼居間の銀時の机の上にある電話が鳴った。
出てみると、神楽の明るい声が聞こえてきた。
「銀ちゃん、大丈夫アルか?」
「ああ」
まだ熱は下がっていないが、悪化はしていなさそうだし、神楽を心配させるような返事はしたくなかった。
「おとなしく寝ているし、薬もちゃんと飲んでいるから、そのうち元気になるだろう」
「……ホントに?」
神楽の声の調子が少し下がった。
そういえば、神楽は母親を亡くしているらしい。その理由は病だったかと桂は思いだす。
「本当だ。俺にまかせておけ。だいたい銀時は殺しても死なんようなヤツだ」
「俺ァ化け物か。殺されたら死ぬって」