最愛の人
いつのまにか銀時がやってきていて、受話器を奪い取ろうとする。しかし、かなりだるそうだ。高い熱があるのだから、あたりまえだろう。
桂は抵抗せずに受話器を渡してやる。
「あー、神楽か、そっちはどうだ」
右手に受話器を持ち、左の手のひらは机の上に置いて、銀時は受話器に向かって話した。
立っているだけでもつらいだろうに。
「あー、そうか、大丈夫か。なら、いい。あ? 俺? んなの大丈夫に決まってんじゃねーかよ」
しばらく話をしたあと、銀時は受話器を置いた。
その直後、銀時は咳きこんだ。おそらく神楽と話をしているあいだは苦しくても抑えこんでいたのだろう。机に突っ伏すようにして、ゴホゴホと続けざまに咳をする。
聞いていて耳が痛い。
桂は銀時の背中にそっと手をやり、揺れる熱い身体をなだめるようにさする。
やがて咳は止まった。
銀時が身体を起こす。
だから、桂は銀時の背中から手を離した。
銀時の眼が向けられる。
それを見返して、言う。
「早く寝ろ」
「……ああ」
なにを考えているのかよくわからない複雑な表情をして銀時はうなずいた。
その翌日、朝食のあと、銀時が体温を計ると、熱は下がっていた。しかし、平熱というほどまでは下がっておらず、もうしばらく寝ているよう桂は命じた。
だが。
後片付けが終わり、洗濯にとりかかろうとしたとき、銀時が和室から出てきた。
寝間着姿ではなく、洋装にきものを片袖脱ぎに着ている。
それを見て、桂は眉根を寄せた。
「まさかとは思うが、どこかに出かけるつもりではないだろうな」
「新八と神楽のあとを追う」
「その必要はない。昨日、電話で大丈夫だと言っていただろうが」
「だが、なんでだかよくわからねーが、俺もアイツらも、面倒なことによく巻きこまれるんだ。心配なんだよ」
「仮に巻きこまれたとしても、あのふたりならちゃんと解決するさ」
けれど、銀時はその桂の言葉を無視するように歩きだす。
銀時が横を通りすぎるまえに、桂はその正面に行き、その身体を止める。