最愛の人
銀時が眼を開け、話しかけてきた。
「すまなかったな」
詫びられた。
急に呼び出されて、看病と家事をしたことだろうと思った。
「別に、たいしたことじゃない」
そう返事したあと、さらに付け加える。
「おまえたちには借りがあるしな」
しかし。
「そのことじゃねェ」
銀時は否定した。
そして、続ける。
「戦のあと、おまえを置いていったことだ」
桂は眼を見張った。
あのときのことを否応なく思いだした。
銀時から眼をそらす。
「……別に、気にしていない」
「じゃあ、なんで眼ェそらしてんだ」
「あのときは」
思いだしたいことではなくて、言葉が途切れた。
だが、すぐに続ける。
「しかたなかったんだろう。おまえ、ひどくつらそうだった」
「つらかったのはオメーも同じだろ」
強い調子で銀時は言った。
たしかにそのとおりだ。
戦で大敗して、仲間がたくさん死んで、深い絶望の底に突き落とされていたとき、それまで一番そばにいて支えてくれていた者に去られた。
あのときの胸の痛みが鮮明によみがえってきて、それを外に出さないよう抑えることができず、顔を歪める。
「オメーに借りなんざねェよ。むしろ、俺のほうがオメーにでっかい借りがある」
「……銀時、それはもう昔の話だ」
「それに、俺が借りがあるのはオメーだけじゃねェ。いっぱいある。借りっぱなしでもう返せねェヤツもいっぱいいる」
亡くなった者たちのことだろう。
銀時のほうを見た。
その眼は天井のほうに向けられ、やりきれなさそうな表情をしている。