最愛の人
「銀時」
声をかけずにはいられない。
「きっと、だれも、おまえに貸しがあるなんて思ってはいない。おまえが、皆のことを、それこそ命がけで護っていたことを、皆、知っているからな」
それでも銀時の表情は変わらなかった。
他人を護りたがり、他人から護られたくない銀時には納得がいかないのかも知れない。
桂は自然と身体が動いて、銀時のほうに身を乗りだし、膝に置いていた右手を布団の上へとやる。
至近距離で言う。
「俺もおまえを恨んでなんかいない。もし恨んでいたら、会いにこなかっただろうし、こうして看病したりもしない」
長らく音信不通だった銀時と接触することになったのは、攘夷党の者が白夜叉を見つけたと報告してきたからだった。
もしも攘夷党の者たちが強い戦力となる白夜叉を見つけたりしなければ、もしも銀時が万事屋の主として江戸で暮らしているのを知っているのが攘夷党の中では自分だけであったならば、自分は銀時と接触しようとは思わなかっただろう。
だが、それは、銀時に対してわだかまりがあったからではなかった。
自らの意志で戦から離れた銀時を、できることなら、そっとしておきたかったからだ。
恨んでいるわけではなかった。
「銀時」
硬い表情で天井を見つめたままの銀時の名を呼ぶ。
そして。
「おまえは、おまえが思っているよりもずっといい人間だ」
そう告げた。
銀時の眼が動いて、ようやくこちらのほうを見た。
嘘をついていないかどうか探るような強い眼差しだ。
その眼を見返す。
すると、銀時は上体を起こした。
「頼みがある」
銀時は言った。
「なんだ」
問いかけている途中で、肩をつかまれた。
「ちょっ……!」
ちょっと待て。
そう言い終わらないうちに、引き倒された。