最愛の人
厳しい声でさえぎった。
「もう終わったことだ。昨夜のあれは」
「同情だろ」
あっさりと銀時は言う。
「俺ァテメーの甘さに付け入っただけだ。そんなことぐれェ、わかってる」
銀時はソファから立ちあがった。
近づいてくる。
すぐそばまでくると、立ち止まった。
「同情でもなんでもかまわねェんだよ」
「銀時」
「もう終わってことだって言いたいんだろ。たしかにそうだ。しかも、終わらせたのは俺だからな」
銀時は鼻で軽く笑う。
終わらせたとは、攘夷戦争終結後に去ったことを指している。
そのことに対して罪悪感を持っていることを知っているので、桂は口を閉ざす。持つ必要のない罪悪感なのだが、いくら言っても、きっと銀時は納得しないだろうから。
「俺だって、終わったことだと思ってた」
銀時は話を続ける。
「だけどな、忘れられなかったんだ。ずっと、いつまで経っても、忘れることができなかったんだ。なにかの拍子に思いだした。夢を見た。会いたくて会いたくて、たまらなくなった。自分から去ったくせに、勝手な話だ。それがわかってるから、諦めようとした。だが、どうにもならなかった」
溜めこんでいたものを解き放つように、話し続ける。
「だから、諦めるのを諦めた。でも、こっちからはなにもしないでおこうと思った。ただおまえが幸せであればそれでいいと思った。そこに俺がいなくても、おまえが幸せなら、それでいいって思ってた」
真っ直ぐに向けられる眼は真剣そのものだ。
その眼にとらえられたように、立ちつくし、黙って話を聞く。
「けどな、そんなの、やっぱり嘘だ」
銀時は言う。
「ただ幸せを願い続けるだけ、なんざ、無理だ。俺ァ、おまえの眼をこっちに向けさせたいし、おまえのそばにいたいし、おまえに触れたい。たとえそれがおまえの幸せを邪魔することであっても、そうしたい。勝手な話だ。わかってる、そんなこと」
強い言葉に、強い眼差し。
動けない。
「俺はおまえとやり直してェ」
そう銀時は告げた。