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こらぼでほすと アッシー14

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 それを横目にして、ロックオンは微笑みつつ、残っているケーキを二切れ、紙皿に移した。それを、居間のチェストの上に載せて、紅茶も並べた。その意味を知っている悟空は、うん、と、頷いているが、人数が増えているのはわからない。
「アレルヤとハレルヤに一個ずつ? 」
「ううん、俺の弟とアレハレルヤに一個ずつ。双子なんだ、俺たち。だからな。」
「双子? 珍しいなあ。」
「だから、瓜二つなんだ。」
 それを見て、刹那は、やっぱり逢いたいんじゃないか、と、紅い瞳で語ったが、ロックオンは気付かなかった。残りのケーキを誰か食べないのか? なんて、仕切っている。
「ひとつは残しといて。ちょっと遅れてるから。」
 後は、みんなで山分けーと、キラが一切れを奪った。ぎゃあーキラさん、ずるいとシンも一切れ取り上げる。それでも、まだ残っている。かなり大きなホールケーキだった。
「誰か来るのか? キラ。」
 そう尋ねたら、玄関のドアが開いた。どすどすという重い足音なので、虎か鷹か、と、思っていたら、歌姫様とジェットストリームな護衛たちだった。
「遅れてすいません、キラ。・・・おめでとうございます、ママ。私くしからは、歌を贈りますね。」
 居間の入り口に立ったまま、歌姫様は、すうっと息を整えると、アカペラで歌い出す。バースディーソングではなくて、アイルランドの子守唄だった。


   ずっと昔 キラーニで
   母さんが僕に歌ってくれた
   優しく穏やかな声


  素朴な古い歌だった
  古き良きアイルランドの歌い方で
  もう一度あの母の歌を聞けるなら
  どんなことでもしてみせる


    トゥラ ルラ ルラル トゥラ ルラリ
    トゥラ ルラ ルラル 泣かないで


    トゥラ ルラ ルラル トゥラ ルラリ
    トゥラ ルラ ルラル アイルランドの子守歌


   よく夢を見る 小さなベッドでぐずる
   僕は抱き上げられ
   母の腕のぬくもりに包まれる

 
  そして 母のハミングが聞こえる
  幼き日の僕に歌いかける声
  庭で僕を優しく揺り動かして
  僕を寝かしつける母の歌


    トゥラ ルラ ルラル トゥラ ルラリ
    トゥラ ルラ ルラル 泣かないで

    トゥラ ルラ ルラル トゥラ ルラリ
    トゥラ ルラ ルラル アイルランドの子守歌
 

 歌姫の歌声は、澄み切った空のように美しい。そして、温かい。その歌声に、走馬灯のように、古い記憶が、ロックオンの目の前に再生される。母が歌っていた姿、そして、父が歌っていた声、双子が小さな妹に歌ったこと。それらがぐるぐると回っていて、視線を落とした。
 もう二度と実際には見ることも聞くこともできないものだ。だが、歌声の温かさが、それを辛い記憶としてではなく、温かな記憶として再生してくれる。メディアを通して歌姫の歌声を聞いたことがあったが、これほどのものとは知らなかった。アカペラで、歌姫が気持ちを込めると、これほどのものになるのだ。誰も身じろぎひとつしなかった。静かな歌は、ゆっくりと語りかけるように歌われて、静かに終わっていく。

「ママ? 」
 歌い終えて歌姫も視線を、親猫に向けた。俯いて肩を震わせている親猫に駆け寄る。
「ごめんなさい、もしや、この歌はダメだったのですか? 」
 何か辛い思い出に連なるものだとしたら、選択を誤った。だが、近寄った歌姫を、ぎゅっと抱き締めて、親猫は口を開く。ちょっと涙声だった。
「ありがとう、なんて、いい娘なんだ。おまえさんはっっ。・・・懐かしいことを思い出した。とても温かくて懐かしい記憶だ。」
 それを聞いて、歌姫もぎゅっと親猫の背中に手を回す。自分には、この才能だけはある。気持ちを乗せて伝える力だ。ナチュラルよりも強化されて突出した力があって、よかったと思えた。親猫に、懐かしい記憶を垣間見せられた。
「それはよろしゅうございました。生まれて、私のママになってくださって感謝しております。毎年、あなたに温かい気持ちになっていただける歌を贈らせてくださいね、ママ。」
「・・ああ・・・練習したのか?・・・」
「ええ、あなたが喜びそうなものを探すほうに時間がかかりましたので、練習は少ししかできませんでしたけど。」
 きっと、自分のママは物を喜ばない。むしろ、無駄遣いすんなと叱るだろうと予想はついていた。だから、キラたちも、物のほうはついで、メインはサプライズとコーラスにしたのだ。
「しかし、それで、なぜ熱い抱擁に見えず、ほのぼのとした空気になるんだろうな? ありゃ一種の才能だぜ? 」
 その光景を一部始終眺めていたハイネは苦笑する。普通、そこまでしたら、どちらかに恋心めたいものが生まれてもよさそうなものだが、そんなムード、微塵もないのだ。
「当たり前だろ? ハイネ。ラクス様は、ママに歌をプレゼントされたんだ。そこにあるのは愛情ってものさ。」
「それより、おまえら、時間はいいのか? もう五時過ぎてるぞ? 」
「撤収予定は、五時だったろ? 」
 護衛組のヘルベルトが、時計を見て、そう言うと、アスランも自分の時計に目を落として立ち上がる。
「ロックオン、慌しくてすいません。みんな、撤収だ。」
「ママ、またねー。」
「おめでとうございます。」
「明日、待ってるよー。」
 口々に、年少組が挨拶して部屋を出ていく。最後に、シンが残った。
「あのさ、父さんのガラスのコップなんだけど、父の日に折半で贈るってことでいい? レイも一緒に三人でさ。」
「ああ、それでいい。いいの探してくれるか? 」
「いや、こういうのは三人の意見を出したほうがいいから、三人で。」
「わかった。」
「じゃあ、ねーさん、また。」
 シンはへらっと笑ってダッシュした。ロックオンに言われて、そういや、お酒を呑むためのコップじゃなくて、ただのコップだったと気付いた。物には拘らない人だが、せっかくなら、そういうとこは拘ってもいいんだな、と、シンも贈りたくなった。ただ、何もない時に贈るのも恥ずかしいから、イベントにかこつけて渡すことにしたのだ。
「ねーさんって言うなっっ。」
 逃走したシンの背後から、ママの叫び声は聞こえた。そういう細やかなところに気付くのが、さすが、俺の姉と内心で叫んでいたりする。

 騒々しい年少組が帰って、残りは、歌姫様ご一行だけとなった。こちらは、開店してから顔を出すから時間に余裕がある。ケーキは、まだ残っているから、それを差し出す。
「すまないが、あたしはパスさせとくれ。」
 ヒルダは、さすがにケーキは、と、辞退したのだが、まあまあとロックオンが差し出す。大人用だから、甘くはないから、と、勧める。だが、残り二人分はない。歌姫様とヒルダで終わりだ。
「大丈夫。ここにありますから。」
 チェストの上に飾られていたものを降ろした。そして、紅茶を入れて勧める。
「え? これ、なんかのお供えだろ? ママ。」
「陰膳ってやつなんで、もういいんです。」
「ああ、アレハレルヤたちか。」
「それと、うちの弟です。」
 そう言われて、マーズも、あーと納得した。資料は読んだから、双子だと思い出したのだ。