二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【無二の接点】

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 死体はどうやら高い所から転落したものらしく、その高い所と想定された場所は切り立った崖で自殺の名所だという。
 竜ヶ峰に連れられてその遺体が一時的に保管されているという警察署の一室に足を踏み入れた。見張り番らしき警官が竜ヶ峰に気付き、ご苦労様です、と慣れた様子で声を掛けているところを見て顔見知りだろうかと静雄は首を傾げる。仕事上で何らかの付き合いがあるのならば同時にそれは臨也にも当て嵌まる。警察に追われるならまだしも親しいとは、こちらでは一体どんな仕事をしていたのだろうとまた疑問が静雄の中に積もる。
 警官は静雄を青いビニールシートがかけられた丁度大の大人が横たわったくらいの塊の前に促すと、一言だけ断って上の方だけをめくった。
 思わず顔ごと逸らした。
 岩に激しくぶつけられた身体はとても見られたものではなかった。顔を確かめて欲しいと請われ、よくよく見たがそれは臨也ではなかった。念のため、恐る恐る右手の人差し指も確認した。何も嵌められていなかったことに胸を撫で下ろした。
 手掛かりはそれ以上なく、日も落ちる頃だった。東京とは異なり海に沈んで行く夕日を遠目に、臨也はいつもこの光景を見ていたのだろうかと静雄は目を細めた。臨也の北陸での生活を見てみたいという好奇心も手伝って静雄は竜ヶ峰にこう頼んでみた。
「臨也の宿泊先に行けないか?」
 返ってきたのは渋い表情だった。
「僕が知らされている宿泊先には折原さんは泊まっていなかったようなんです」
「こっちにはいつも決まった場所に泊まってるって言ってたぜ?」
「そうなんです。おかしな…話ですよね」
 顎に手を当てながら呟く竜ヶ峰にどことなく恋人の姿が重なった。

 宛てのなくなった静雄は竜ヶ峰の伝(つて)で案内された市内のホテルで一晩を過ごすことになった。土地勘が全くないので竜ヶ峰に任すまま連れていかれたのがいかにも高級だったので、旅費を大して持っていなかった静雄は激しく動揺したが、ここのオーナーと折原さんは懇意で名前を出せばタダ同然なんです、と何でもないように竜ヶ峰は笑った。とりあえず静雄もつられて笑ったが、引き攣っていた。
(一体、奴はこっちでどんな仕事をしてたんだ)
 チェックインの手続きを竜ヶ峰に任せ、ロビーから眺める硝子越しの外では雷鳴が鳴り響いている。
「冬の雷かよ」
「雪おこしの雷です。明日はきっと大雪になりますね」
 ぼやいた静雄にホテルの従業員らしい女が丁寧に返した。一瞬、目が臨也と同じように紅く見えた気がして、確かめようとしたが後ろから竜ヶ峰に呼ばれ、真偽のほどはうやむやになってしまった。
 ルームキーを受け取り、竜ヶ峰とはまた明日会う約束をして静雄は部屋に入るなりベッドに突っ伏した。
 異様な疲れがあった。慣れない列車での長旅ももちろんだが、見せられた酷い有様の遺体が目の奥に焼き付いている。もしも臨也もあんな風に発見されたらと思うと背筋が寒くなった。
 ただじっとしていては嫌な想像しか湧いてこない。早々に眠ってしまおうと荷物の整理もそこそこに備え付けの寝間着に身を包んで、雷の音を背にしながら一人布団の中に潜り込んだ。
 断続的に部屋の暗闇を裂く稲光を瞼の裏に感じながら改めて考える。
(俺は臨也のことを知らない)
 一人用にしては広いベッドの中、気温の所為だけではない肌寒さに身を縮こまらせる。
(この北陸に来て益々知らないことだらけだ)
 折原臨也という男のことを知らない。何よりもそれが静雄の不安を掻き立てた。


○2月13日
 次の日は従業員の女が言った通り雪が降った。ホテルの暖房はよく効いていたが、東京とは異なる寒さに体を震わせながら朝一番に眠気覚ましのシャワーを浴びて、髪を乾かしていると携帯に着信があった。新羅からだった。
『臨也には会えた?』
「いや、相変わらず連絡もねえ。どっかで背後から刺されておっ死んじまったのかも…なんてな」
『虚勢を張るなよ。俺も合流する。丁度出張があってね。明後日には着けると思う』
「わかった」
 短い通話を終えると手早く身支度を整える。食欲はあまりなかったが体調を崩してはどうしようもない。軽い朝食を摂った後で、竜ヶ峰とホテル内のラウンジで落ち合った。
「僕よりも詳しい人に心当たりがあります」
 自分の情報網だけでは限界だと竜ヶ峰から臨也の北陸での得意先という相手を紹介してくれることになった。誰だと問うと、正に一宿一飯を世話になったこのホテルのオーナーがそうだという。善は急げと早速竜ヶ峰が秘書に連絡を入れると、あっさりとアポを取った。自分より若い青年の仕事の速さを見習いたいくらいだと静雄は感心しいる。
「ただ、僕は同席しませんので」
「何でだ?」
「あまり目立ったことをすると、足元を見られ兼ねないんですよ」
 紹介だけで、同席しないのは事を大きくさせたくないらしい。後任になっただけでも甘く見られがちなのに、絶対の後ろ盾である臨也が行方不明だと知られると仕事上都合が悪いのだそうだ。
「情報屋ってのも大変だな」
「まあ、僕はこんな形(なり)ですから下手に会うと相手に舐められる…特にここオーナーには会わないように、と折原さんに釘を刺されているのもあるんですけどね」
 他人に自分の行動を読ませない臨也に業を煮やした恋人が勝手に探しに来たということにしたと竜ヶ峰は伝える。あながち間違ってもいないので、考える間もなく静雄は承知した。
「臨也さんは彼を大分気に入られていました」
 オーナーに臨也は随分有利になる情報をリークし、重宝されていたらしい。また癖のある人物であの臨也が珍しく気に入ったのだという。
 偶然にもオーナーはこの日このホテルに滞在しており、フロントで部屋を確認し、竜ヶ峰とはそこで別れた。

「こちらです」
 部屋番号は聞いたもののだだっ広さに迷っていた静雄に、オーナーの部屋へ行くのなら、と偶然居合わせた昨日雪おこしだと教えた従業員の女が部屋まで案内していた。
「なあ、オーナーってどんな奴だ?」
「私にとっては恩人です。仕事に困っていたところを厚遇で雇ってくださって。とはいえ、まだお会いしたことはないんですけれど」
 これだけの人数を要するホテルとなると、直接オーナーが使用人と顔を合わすこともないのかと自分の世話になっている社長の顔を思い出しながら、静雄は曖昧に相槌を打った。こちらです、と前を歩く女が足を止めたのは特別造りのよい扉の前だった。
「助かった」
「見習いの私がお役に立てたなら何よりです」
 静雄の視界の端に見習いだと自称する女のネームプレートが入った。園原、とその上にはローマ字でも名前が刻まれている。ぺこりと一礼して去っていく女の名前を呼んで、もう一度礼を伝えると、本当に嬉しそうに目を細めた。その色は黒だった。昨夜紅く見えたのは恐らく気の所為だと静雄は自分が臨也の姿を追いすぎているなと苦笑する。
 ノックをして部屋に入ると、首に黄色い布を巻いた若い男が不機嫌そうに目の前の部下らしき男に何か早口で捲し立てていた。どうやら仕事でのミスを叱責しているようだった。ドアの閉まる音に合わせて静雄が一つ礼をすると、まずいところを見られたように慌てて笑顔を取り繕い、別室へと案内された。
作品名:【無二の接点】 作家名:らんげお