二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【無二の接点】

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 沙樹が紀田邸に戻ると正臣の相手をしていたと思われる商売女達が帰っていくところだった。特に感情を乗せない瞳で彼女達の背を見遣った後、リビングの二人掛けソファに倒れるように横たわる正臣を見つけた。
「正臣、飲み過ぎじゃない?」
「お帰りぃ、沙樹。新羅さんが襲われたんだってなぁ」
「うん」
 赤らめた顔で緩慢に身体を起こした正臣の隣に沙樹はゆっくりと座る。直後、その頬に伸びた手がくいと沙樹の顎の向きを変えさせた。正臣の腕だけの距離で二人の視線が絡む。
「なあ、新羅さんとは何にもないんだよな」
「何もないわ」
「なあ、沙樹。沙樹は本当はどんな女なんだ? ずっと傍にいてくれてるのに、俺、全然わからないんだ。なあ、本当は俺の隣じゃなくて………臨也さんの」
「もう、終わったことだよ」
 正臣の言葉を押し止めるように、沙樹は自分の唇で塞いだ。


○2月17日
「新羅を送り届けたらまた帰る」
 まだ意識の戻らない新羅に連れ添う形で静雄は一旦東京に戻ることにした。見送りに竜ヶ峰がやって来ていた。
「こちらでも臨也さんのことは引き続き調べてみます。僕にとっても大切な上司ですから」
「すまねえ」
「静雄さんが謝ることじゃないですよ」
 頭を下げる静雄に竜ヶ峰は小さく笑った。
 動き出した車の中で考える。
(このまま出発していいのか? 何か…何かを忘れている気がする。手遅れにならないうちにやらなきゃいけねえこと)
 ふと静雄の目に付く、光るブレーキランプ。
『私にとっては恩人です』
 臨也の瞳とよく似た色の瞳。あの晩に見掛けた新羅がもし気の所為ではないのなら、一緒にいた彼女についてもそうではないか!
 弾かれたように既に走り出していた車から静雄は飛び降りると、竜ヶ峰の背を呼び止めた。驚き入る竜ヶ峰に迫り、壊さないよう、しかし力んで両肩を掴む。
「これは警察には黙ってて欲しいんだが」
 園原というホテルの従業員。静雄は竜ヶ峰にその女を調べるよう依頼した。
「わかりました。できる限り手を尽くしてみます」
 竜ヶ峰の快諾にまだざわつく胸を無理やり抑え込んで、静雄は東京への、住み慣れた街への帰路につく。


○2月18日
 新羅を自宅に送り届け、深夜遅くに新宿のマンションに戻った静雄は何をする余裕もなくベッドに倒れた。泥のような眠りから目覚めさせたのは昼も大分過ぎた頃、携帯電話への見慣れない番号からの着信だった。
『園原さんについて少しわかりましたよ。どうやらあのホテルで働き出したのはごく最近らしいです。本人にも話を聞けたらと思ったんですが、2月14日から無断で仕事を休んで行方不明のようです』
「14日っつったら新羅が刺された前日じゃねえか」
『はい。しかも彼女は過去に銃刀法違反で警察の厄介になったことがあるとか』
「銃刀法って…大人しそうな顔してる割に物騒だな」
『…そうですね』
 竜ヶ峰が調べたことで静雄に印象強く残ったのは、園原の旦那がつい先日───2月7日───崖からの身投げだった。園原は無惨な遺体を一目見て旦那その人だと認め、しかし涙一つ見せなかったらしい。また不可思議なのは、紀田正臣のホテルに従業員として雇われたのがその翌日だったということだ。しかも死んだ旦那とオーナーとの繋がりが知られておらず、あくまで噂だが、園原はオーナーの愛人ではないかというのが周囲の専らの
有力な説だと報告を締め括った。
『今晩、園原さんの住んでいるアパートに行ってみようと思います』
「気をつけろよ。もしかしたら新羅を刺した犯人かもしれないんだ」
『大丈夫です。それに…事件記者みたいで楽しいんです』
 非日常を何処か楽しそうに話す竜ヶ峰に静雄は不安を覚えたが、自分の身を守るための手段もある程度は心得ているだろうと信頼することにする。それよりも一刻も早く北陸に舞い戻りたかった。自分の知らないところで事が起きるのが怖かった。
(明日は一番で北陸だな)
 そう決めて静雄は手早く荷造りをして、再び眠りにつくことにする。そうすることで、油断すれば沸々と迫り上がってくる厭な想像から少しでも逃れようとしていた。

 夜遅く。
 竜ヶ峰は園原杏里のアパートを訪れ、まずインターフォンを鳴らした。返事がなかったのでドアノブに手を掛ける。鍵が掛かっていない。開けた扉の向こう、一切明かりがない室内へと慎重に踏み込む。
 ハンガーラックには赤いコートが掛かっている。暗がりの中で竜ヶ峰がそれに気付くことはなく、息を潜めつつ一歩また一歩と奥へと進む。
 窓際まで辿りついた時、暗い部屋の中で金属色が鋭く閃いた。


○2月19日
「背後から一刺しって!」
 翌日、北陸に着いて静雄が真っ先に向かったのは病院だった。
「間一髪。人の気配がしてかすり傷ですみました。残念ながら捕まえることはできませんでしたが」
「無事だったことを喜べよ…新羅と同じ羽目になったかもしれないんだぞ」
 自分の脇腹に視線をやりながら、すみません、と竜ヶ峰は零した。
 本人の言った通り傷は大したことはなく、至って平然と会話をしていた。少しの間世間話をし、まだ念のため検査があると竜ヶ峰は看護師に連れられていった。
 それに合わせても静雄も病室を出ようとしたところで、新羅の事件で世話になった刑事と鉢合わせた。
「竜ヶ峰ならいないぞ」
 被害者への事情聴取だろうという予測に反し、刑事は静雄を引き留める。
「ちょっといいか?」
 見舞いの来客用に設けられたスペースに促された。禁煙の掲示に辟易しながら、静雄は自販機で買ったホットココアのカップに口をつけた。向かい合って座る刑事はそれが離れるのを見計らって話を切り出す。
「二人ともお前の知り合い。犯行の手口も似ている。何か心当たりはないか?」
「言っておくが、俺じゃねえぞ」
「お前にはアリバイがあるから、そもそも疑っていない」
 幸いなことに、新羅の時は部屋に入った後は出ていないとホテルの従業員から証言が取れ、竜ヶ峰の時はそもそも北陸にいなかったことで静雄は容疑を免れていた。
「13日の夜。岸谷が借りた部屋から赤いコートの人物が出ていくのが確認されてる」
「じゃあそいつが犯人じゃねえか」
「ああ、そして園原杏里の部屋から赤いコートが見つかっている。警察は彼女を殺人未遂容疑で手配することになった」
 あの純朴で気弱そうな女が本当にそんなことをするのかと釈然としなかったが、かといって庇い立てる義理も理由もない。再びココアを口元に運ぶ静雄に刑事は口元を組んだ指で隠し、潜めた声で述べた。
「正直、俺はそうは思えない。お前もだろ」
 淀みなく言われ、静雄はカップに唇をつけたまま固まった。それを肯定だと認めて刑事はにやりと笑う。
「だからお前に心当たりを聞いたんだ。例えば園原杏里について何か知らないか?」
「心当たりっつってもなあ」
 頭の中に蘇った園原杏里は笑顔で微笑むだけだったが、ふと竜ヶ峰からの情報が思い浮かんだ。
「そういえば、一緒に暮らしていた男は自殺なんだよな」
「ああ。気の毒な話だ。…何でそれを知ってるんだ?」
「…ちょっとな」
 刑事は静雄を訝しそうに睨めつける。が、折原臨也の関係者だったなと小さく呟くと、妙に納得した面持ちで情報を付け加えた。
作品名:【無二の接点】 作家名:らんげお