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【無二の接点】

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 セルティは更に自分たちもその抗争に直接ではないが巻き込まれたとPDAで補足した。また、三人ともその頃に知り合ったと付け加えた。
「臨也はね。当時、自分の趣味で三人の仲を切り裂いたんだ。それも狡いことに自分の仕業とわからないように言葉巧みに三人を操って」
 相当良からぬことをしていたことは予想していたが、初めて耳にする事実に静雄は半信半疑のまま続きを待つ。
「たくさんの人を巻き込んだ三つ巴の抗争は、多くの犠牲を出した。最終的には誤解をしていたそれぞれのリーダーの和解で何とか収まったんだけど。居た堪れない気持ちだっただろうね」
『三人は殆ど時を同じくして東京を去った。その行き先が北陸だ』
「それも臨也が仕組んだんだろうね。きっとまた舞台を変えて同じことをする気だったんだろう」
 どれだけ人でなしだろう、と静雄は腸が煮え返るのを感じた。そして素直に好意を受け入れて身体を重ねた自分自身に嫌悪さえ覚える。
「でもね。ああ、ちゃんと神様は見ているんだなって。少なくとも俺は思ったよ」
「何のことだ?」
「皮肉なものだよ。人に歪んだ愛を惜しみなく向けていた臨也は…君という人ならざる人に出会って、ようやく真っ当な愛情というものを知ったんだ」
 静雄という存在に触れ合うようになってから、臨也は変わったと何処か嬉しそうに新羅は語る。「シズちゃんといるとね。満たされるんだ。シズちゃん以外がどうでも良くなって、目に入らなくなりそうなくらい、好きなんだ。こんな気持ちは初めてだよ。考えられるかい? 博愛主義のこの俺がだよ?」信じられないと繰り返しながら率直に静雄への愛情を述べる臨也に、新羅もその時ばかりは思わず言葉を失ったと笑った。
「次第にこれまでの行いを悔いるようになったあいつは、あいつなりに罪を償おうとした。何か出来ることがあるはずだと、きっと駆り立てるものがあったんだろうね。そして彼らしからぬ…軽率な行動を取ってしまった」
「何だよ」
『直接、会いに行ってしまったんだ』

   ***

 北陸行き列車内。
 ───三人が北陸で再び臨也と出会ってしまったことは悲劇にしかならなかった。
 新羅の言葉を胸の内で反芻しながら、静雄は夜を北へ向けて走る列車に揺られていた。
 新羅は最初から園原のことを臨也から聞いていた。だから慌てなかった。また、空白の一日は園原から事情を聞いていただけで、特に疾しいことはしていないと念を押した。疾しい、という単語はセルティに向けられていたが静雄はそこには気付かず、何故自分に黙っていたのかと憤った。さすがに仮にも重傷を負っている相手に拳を振り上げるような真似はしなかったが、完治してからにする、と言った静雄に新羅は平謝りした。
 そして新羅は15日の夜のことを告げる。
 新羅はフロントに預けていたコートに園原から『思い出したことがあるので二人で会いたい、勤務があるのでホテルの一室を借りてほしい』というメモを見つけ、その晩部屋で待っていた。そこで臨也のことを探られては都合の悪い人物に背後から刺された。赤いコートを身に纏った人物に。

   ***

 北陸。田舎道を走る車内。
「私は折原臨也という人に会ったことはなかった。けれど奈倉さんが嘘をついているということには気付いていた。奈倉と名乗った彼は人を愛することができない私に愛情をくれた。女としてではなくて、人間として。だから…何となく長く続く訳がないとわかっていた」
 車の後部座席には昔を懐かしむように話す園原杏里。赤いコートに身を包んでいる。
「遺書は私から逃げるためだろうとも。だから、死体が見つかったなら、それが誰であっても彼だと認めようと決めていた」
 膝に置かれた右手を宥めるように、左の手で撫でる。その指先は薄暗い車内にもわかるほどに白くか細い。
「そして新羅さんが来て、全部わかった。新羅さんは『自殺? あいつがそんなことするわけがない!』そう言っていました。だから、きっとあの人は何処かで生きていて、そして大切な人と暮らしているんだろうと。私が縛り付けてしまったあの人が幸せなら、それで私は十分です」
 一度瞳を閉じて、窓の外を降る雪に視線を送る。窓ガラスに映りこんだその表情は穏やかだった。園原の独白がすべて終わったのを確認したところで、車のハンドルを握ったまま運転手は笑い出した。
「ははっ、違うよ。園原さん。君は騙されていたんだ」
「どういうことですか?」
「知ってた? 僕たちが不本意に巻き込まれた東京での抗争。あれは全部折原さんが仕組んだんだよ」
「え?」
 園原の瞳の中で光が揺らいだ。視線を前に向けたまま運転手は続ける。
「しかも、あろうことか折原さんは東京で生まれ変わりたいって言ったんだ」
 雪の中、急に車が横滑りして走りを止めた。がくんと上下した弾みに小さく園原が悲鳴を上げる。
「ああ、ごめん。エンストしちゃったみたいだ。最近この車、調子が悪くて」
 園原に振り返ったのは竜ヶ峰だった。その顔にはあくまで自然な笑みがあった。
「ちょっと見てくる」
 エンジンを切ると竜ヶ峰は雪の積もる道に足を降ろす。対向車のない田舎道の両側には木が林立している。ヘッドライト以外に明かりはなく、ボンネットを開けた竜ヶ峰は手元を照らすため携帯電話を取り出そうとコートのポケットの中をまさぐる。
「直りそうですか?」
 取り出すより先に園原の携帯電話からのライトが手元に当てられていた。ありがとう、とその光を受けながら竜ヶ峰はゆっくりと問い掛けた。
「ねえ、園原さん。僕達が最後に会った日のこと覚えてる?」
「…覚えています」
 竜ヶ峰帝人、紀田正臣、園原杏里。三人で東京から逃げた過去が二人の中に蘇る。
『杏里、どうして泣くんだよ?』
『色々思い出してしまって…』
『大丈夫だって、今からやり直せばいい』
『次に会うときは…正臣も園原さんも別人になってて擦れ違っても気付かなかったりしてね』
『いや、次はもうない』
『どうしてですか?』
『俺たちが一緒にいたら、また利用されるかもしれない』
『正臣の考えはわかるけど、今までずっと僕達三人一緒だったのに』
『俺も辛い。でもあんなこと…もうごめんなんだ。だから…もう二度と会わないでおこう』
『…わかった』
『わかりました』
 東京から行き着いた北陸の地で、それぞれ生きていこうと約束した廃屋の中。それぞれが不安と後悔と躊躇いを抱いたままの別れだった。その日を最後に互いは他人として北陸での人生を始めた。
「あの時はそうするしかないと思ったけど…別れてしまったことはやっぱり悔いが残ったよ」
「…私もです」
「それでね、僕は二人を探そうと思ったんだ」
 頭や肩に積もる雪を払いながら、竜ヶ峰は園原に笑いかけた。
「ちょうどその時。東京から遠く離れた北陸で折原さんとばったり会ったんだ。神様はいると思ったよ」
 冗談でも言うような明るい声が静けさの中でよく通る。
「僕はあの人に憧れていたし、あの人の力を借りれば、二人を探すこともできると思ったから助手を名乗り出た。折原さんは渋ったけれど、承諾してくれたよ」
作品名:【無二の接点】 作家名:らんげお