二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【無二の接点】

INDEX|9ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「奈倉さんなんていなかった。私は騙されていた。けれど私はあの人に確かに愛情を教えて貰いました」
 次の瞬間、園原の手から金属が閃くと、次には日本刀として形を持ったその刃が竜ヶ峰のナイフを弾き飛ばす。一瞬のことで身動きの取れなかった竜ヶ峰はすぐさま雪の上に落とされたナイフに手を伸ばした。それより先に園原の手がそれを掴み、竜ヶ峰に刃先を突き出す。
「何をする気?」
「竜ヶ峰君には何もしません」
「私はもう十分なんです。だから、笑ってください。あなたは生き延びて。私の分まで生きればいい」
 予想外の行動に竜ヶ峰は微動だにせず、ただ目を見張る。園原は今にも泣きそうな笑顔を零した。
「またいつか会いましょう」
 奪ったナイフを園原は自分の首元に押し当てる。
「杏里!」
 突然暗闇から飛び出してきた男が、園原の手からナイフを引き剥がす。その顔ははっきりと見えないが、ヘッドライトに照らし出されたのは鮮やかな黄色の布。
「正臣?」
「紀田君…?」
 驚く二人に、そして後に続いて姿を現したのは、夜に溶けそうな黒いコートを纏った男。その紅い二つの瞳を認めて、帝人は驚愕した。
「折原さん…!? どうしてここに…いや、何で生きて」
「俺を殺そうなんて、帝人君にはまだ早いよ。それと。死んでも奈倉は喜ばないな」
 竜ヶ峰と園原に交互に視線を送り、臨也は微笑む。しかし、それはそこにいる誰もが知らない、悲しさを綯い交ぜにした淋しいものだった。
「残念だけれど、全部俺の計画だった」
「ごめんな。杏里。俺達が奈倉…臨也さんが死んだように偽装したんだ。そしてずっと匿っていた」
「正臣…どうして? 何で生かそうとしたんだ! この人は…この人は!」
「じゃあ何で君は俺の背を押さなかったんだい?」
 臨也の一言にびくりと竜ヶ峰の肩が跳ねる。言い淀む竜ヶ峰に言葉を掛けたのは臨也の陰に寄り添うようにして立っていた沙樹だった。
「押せなかった?」
「違う」
 否定する竜ヶ峰の声音は弱々しい。
「私達は殺せなかった。どれだけこの人がやってきたことをわかっていても。正臣達がどれだけ苦しんだか知ってるのに」
「沙樹」
「これじゃ正臣と一緒にいるの…失格かな」
「いいよ。それでもいいよ。これは全ては運命だったんだ。そんな沙樹と…俺は
生きてく」
「…うん」
 正臣は微笑んだ沙樹を優しく腕の中に抱き寄せた。
「竜ヶ峰君。私は奈倉さんを…罪歌で愛してしまおうと思ったこともありました。でも出来なかった。それは奈倉さんのお陰だから。奈倉さんは、臨也さんはもう抗争を起こそうなんて考えていない。それは…竜ヶ峰君もわかっていますよね」
「わかってるよ」
 力なく吐き出して、ようやく竜ヶ峰は臨也と真正面に向かい合った。
「折原さん、本当に幸せそうにあなたは笑うようになった。だから余計に…僕は」
「帝人君」
「結局あなたの独り勝ちです。みんなをいいように操ったくせに許されて…そうです。僕もあなたを手にかけるなんて出来ないんです。全部計画通りなんでしょう? 最後まで…真実を隠し続けていてくれれば良かったのに! そうしたら、僕はただあなたに憧れる道化師でいられたのに!」
 雪の降り頻る中に響いたのは、悲鳴にならない竜ヶ峰の嗚咽だった。


○2月22日
 静雄が北陸に着いたのは早朝のことだった。携帯電話に連絡を受けて、タクシーの運転手に行き先を警察署に指定する。ラジオからは連続殺傷事件の犯人が自首したと流れていた。
「久しぶり」
「…臨也…なんだよな」
「ひどいなあ…少し会わないうちに恋人の顔忘れちゃったの?」
 それは静雄が知っている臨也とは掛け離れていた。別人、と言っても差し支えない。余裕のない憔悴した表情に無理矢理笑みを貼り付けて、秀麗な顔は台なしだった。

 三人は揃って事情を警察に伝え、少しの間警察に拘留されることになった。事件を担当するのは門田だと聞かされ、静雄は幾許か安心した。「俺の勘、当たってただろ」「ああ、すげえな」「さすがドタチン」静雄の横にいた臨也に気付くと、溜め息混じりにさっさと行けと手を振られた。
 事情聴取を終えて警察署から出ると、見覚えのある車が停まっていた。紀田邸に行く際に静雄が世話になったタクシーだった。その脇に立っていた沙樹が二人の姿を見つけて、真っ直ぐ歩いてくる。臨也が何か言おうと口を開きかけて、その前に沙樹の平手打ちが冴えた朝の空気に鳴った。
「あなたはこの地で平穏に暮らしていくはずだった三人をまた傷つけた」
「やってくれるね」
 赤くなった頬を摩りながら眇める臨也に、沙樹はきっぱりと言い放った。
「もう二度と彼らを傷つけないでください」
 臨也は長い沈黙で返した。それが否定でないことは承知している沙樹も静雄も何も口にはしない。やがて止まった時間を動かすように沙樹が静雄に向き直る。
「どうしても伝えなくてはいけないと思って来ました」
 見詰められ、この女はこんなに強い光を宿した目をしていただろうかと一瞬静雄は怯む。けれど、紡がれたのは変わらない柔らかで澄んだ声だった。
「誰よりも臨也さんはあなたを愛している。臨也さんはあなたとなら生まれ変わることができる。新しい生活をすることができる」
 凛と言い切ると呆然とする静雄に笑む。だから怖れることはない、そう不安を拭い去るように驚くほど華やかな笑みだった。直ぐさま踵を返せば、一度も振り向くことなく沙樹は車の中へとその細い体を滑り込ませた。
 沙樹を乗せた車は静かに北陸の街並みに溶けていく。静雄はそれが見えなくなるまで、ただただ滲む視界で見送った。


○2月28日
 北陸の沙樹から東京に手紙が届いた。宛名は折原臨也と平和島静雄、二人の名前が並んで記されていた。
 事件は誰も死んでいなかったということと、被害届を出さなかったことで誰も重罪になることはなかった。一番の割りを食う羽目になったのは重傷を負った新羅だったが、「セルティの愛をひしひしと感じることができたよ!」と刺されたことに寧ろ喜んでいた。
「別にメールで知らせてくれればいいのに」
 竜ヶ峰帝人、紀田正臣、園原杏里。そこに書かれているだろう、それぞれの詳しい処遇について臨也は口にはしなかった。ただ、近いうち四人で生活することにしたと書いてあったとだけ静雄に伝えられた。
 手紙は静雄も見ている前で鍵の掛からない引き出しに入れられたので、恐らく勝手に読んだとしても咎めることはしないだろうが、静雄は見ないことにしておく。これでも相手に理解のある恋人だと自負している。
「あの抗争は子供を否応なしに大人にさせてしまった。あの子達はいつ粉々になってもおかしくなかった」
 臨也の口からぽつりぽつりと今回の、そして抗争についてが静雄に語られた。先に静雄は無理に聞く気はないと言ったが、聞いてほしいんだ、と願われて臨也の隣に黙って座っていた。
「俺は間接的にとはいえ、多くの人を傷つけた。俺は三人のことを忘れまいと写真を残した。罪を写真に変えて一生抱えていこうと思った。今更こんなこと言い訳にしかならないけどね」
「全部、俺には黙ってか?」
「まさか見られるとは思わなかったよ」
作品名:【無二の接点】 作家名:らんげお