あともう少し
それからまた彼女と何かを話した。話題なんてものはなく、また彼女はどうやら口数が少ないらしく、会話も微妙に弾まず、すぐに終わってしまう。少し話して、臨也はそこを離れた。
そうやって数日の間、学校の帰りにその公園に寄った。そして彼女に会った。少し会話して話題が尽きれば、彼女は本を読んだ。彼はぼうっとしたり、本を読んだり、寝たりしていた。
学校の知り合いや家族に少女の話はしなかった。別段話すようなことではないと彼は思ったし、秘密というようなものでもないが、なんとなく公園の少女のことを自分の胸の内だけに留めておきたいと思ったからだ。ただ放課後は化け物と鬼ごっこなんてことにならないように気をつけねばならなかった。
ある日のことだった。彼女と会って数日たった放課後、犬猿の仲の“それ”に長いこと追い回される羽目になったのだ。軽い傷を負いながらも臨也は日が暮れる頃にその公園へ向かった。もういないか、と彼がその場所へ行けば、まだ彼女が居たものだから、彼は驚き、少しだけ安堵した。
もしかしたら喜びさえしていたかもしれない。
赤みを帯びた彼女はまた違って見えて、そして綺麗だった。
彼女は自分に気づくと珍しく彼女から口を開いた。
「来ないのかと思った」
その言葉がどこか気恥ずかしくて、彼は僅かに目を逸らして答えた。
「ちょっとね。鬼ごっこが白熱して」
「そう」
微妙な間。
「怪我してるわ」
「あ、あぁ・・・そういえば」
「こっち、来て」
言われるまま彼女について行けば、公園に備え付けられている公共の水道へ連れてこられる。
「傷を洗わなきゃ」
「そうだね」
言われて傷を洗い、手で水を拭っていると、ハンカチが差し出される。
「血、ついちゃった」
「別にいいわ」
「いや、でも・・・」
洗って返すと言う前にハンカチは持ち主がさっと取り上げていった。かわりに絆創膏を差し出される。
「・・・ありがとう」
春の陽気が暑くなってきているような気がした。