東方無風伝 2
横目で魔理沙はどうしているのかと伺えば、棚に並ぶ商品と思わしきものを一つ、手にとって見ていた。
警戒していない様子から、森近は商人といえど胡散臭い連中とは違い、信用しても良い人物ということだろう。
「ああ良かった。名前と用途は解っても、肝心の使い方が解らなくて困っていたんだ」
「先程もそう言っていたな。それが森近の能力か」
「そうだぜ、道具の名前と用途が解るらしいぜ」
「ただ使い方が解らなくてね。例えば、これ」
そう言って森近が見せてくるのは、先程も持っていた手の平に収ま長方形の物。
「これは、アイポッドと言うらしい。用途は音楽を聴く。それ以外は解らない。君なら、解るかい?」
「借りるぞ」
「どうぞ」
森近から例のアイポッドを借りる。
どれ、と呟いて適当なボタンを押すが、画面は何の変化も起こさない。
どうやら充電切れなようで。
これならただのがらくたに過ぎない。
「残念ながら、充電が切れている。これでは使えないな」
「充電?」
「エネルギー切れだ。水車を回そうにも、肝心の水が無いということだ」
なるべくこの世界でも通用しそうなもの、水車で例えたが、果たして通じるかどうか……。
「成る程、水車小屋も水が無いとただの小屋。本来の機能を発揮しないということかい?」
「察しが良いようで」
「外来人に見せると、同じようによく充電切れだと言われるんだ」
「森近、俺を試したな」
「あ、気付かれたかい」
以前にも言われたことがある。イコール、それ他の外来人にも見せ、同じように使えないと言われたことがある。
使えないと解っていて見せたと言うことは、彼は本当に俺が外来人なのか試したのだ。
「いや、気を悪くしないでくれ。ただの遊びさ」
「いや、構わんさ」
何故ならこれは遊びだから。
何より、これで俺は外来人だと証明出来たのだ。先程の契約は確立出来たということ。
「さて、本題に入るとしようか」
「冗談は抜きにしてな」
森近の目が変わった。
まるで玩具を親から買い与えられるのを心待ちにしている少年のような目に。



