東方無風伝 2
「終ったか?」
「お早う魔理沙。終ったよ」
魔理沙は丁度目が覚めたようで、ふわっと欠伸をしながら話しかけてきた。
良かった、寝ている少女を俺の都合で起こすのは気が引けるが、その手間が省けたようだ。
「結局刀にしたのか」
「ああ。格好良いだろう?」
「子供がその刀を玩具として扱っているようにしか見えないぜ」
「手厳しいことで」
冗談で言ったつもりだが、魔理沙はそう取らなかったようでそんな辛口な評価をしてきた。
しかしまぁ、子供が玩具として、ね。
俺は剣術を習ったことも無ければ、こうして刀に触れるのも初めてで。
剣を振うなんてこと、出来やしないんだよ。
だから、『これ』は玩具にしかなり得ない。
だからこそ、我流で良い、少しずつで良い。
『こいつ』を『玩具』なんかでなく、『刀』として触れるように修行していきたい。
「それで、風間はこれからどうするつもりだ?」
「これから、とは?」
「どこに行く気だって聞いてるんだ。風間もどうせ、他の外来人同様どこそこに行きたいとか有るだろ」
どこそこに行きたいと言われても、俺は幻想郷に来たばかり。幻想郷の地名おなんて解らない。
「あ、そうか、風間は知らないタイプだったな」
「どういう……」
「外来人はな、時折こっちの世界のことを知っている奴がいるんだ。向こうはこっちのことは知らない筈なのに、どうしてだろうな?」
「きっと、外の世界に帰って行った外来人が言いふらしたんじゃないのか」
「だとしても、普通外来人が知り得ないことを異常に詳しく知ってたりするんだよ。時には、私達以上に」
「ふむ……」
俺はこの幻想郷のことを知らない。
だが、俺が元居た世界、外の世界では知っている人間がいる。
俺の知識は、『広く浅く』だ。話を聞いた事が有っても、直ぐに忘れてしまう。何故なら、元々の知識量が多過ぎるから。
情報過多で、頭がパンクしてしまそうになる。
だから、俺はよく大事なことを忘れてしまう。
例えば、八雲紫の存在とか。
未だに思い出せないが、その名に聞き覚えは有る。
一体その名がこの世界で、そして外の世界の俺に何をしたというのだろうか。



