東方無風伝 2
「……魔理沙」
「言うな、解ってるから、言わないでくれ」
歩き初めて早一時間。魔理沙の案内のもとで歩き続けているが、一向に森の中を抜けられない。
どうやら魔理沙自身、道が解らなくなっているようで。
「何時もは飛んでいくからなぁ」
「今からでも飛べないか?」
「無理だな。密集して木が生えてるだろ。これじゃ木が邪魔で飛べないぜ」
俺が空から落ちた際に空けた穴が有るが、其処まで戻るとすればまた一時間、歩き続けることになる。
「今は、歩き続けてそのうち森から出られるのを信じよう。そうすれば、私が空を飛んで辺りの様子を探れる」
「そうするしかないのかな」
結局はまだまだ歩き続けると言うことで意見は固まり、実行に移す。
自然に生えた木々は枝を自由に伸ばし、それが空を遮る。その為、地面に差し込む光は不十分で周囲は薄暗い。
「そうだ魔理沙。あのルーミアをやっつけたレーザーで空に穴を空けると言うはどうだ」
思いつきで言ったその言葉に、魔理沙は何処か緩慢な動きで見えない空を見上げ、一つ溜め息を吐いた。
「出来なくはないけど、あまりやりたくないな。疲れるし、失礼だぜ。それは最後の手段にさせてくれ」
「失礼とは、何に?」
「森に、だぜ。そう言うことはやたらめったらやるものじゃないぜ」
「そうか」
魔理沙の言うことは解らなくもない。
自分達の身勝手で他のモノを傷つけるものではない。どうしてもその必要性が出てしまうならば、それはそれで仕方が無い。
あくまでもそれは、最後の手段。
「風間」
「どうした?」
突然、魔理沙は俺に呼び掛ける。
「何か聞こえないか?」
魔理沙に言われ、耳を澄ます。
「……本当だ」
それはまるで人の声のような音。何処か不規則に揺れるその声ははっきりとは響いてはこない。
「行くぜ」
そう言って魔理沙は歩き出す。
「妖怪の類でなければ良いが……」
「いや、多分妖怪だろ。こんな森の中で自分の存在をアピールして、人間だったら襲って下さいと言ってるようなもんだぜ?」
「解っていて行くのか」
「ああ、多分この声はあいつだろうし」
萃香の時もそうだったが、魔理沙は妖怪の知り合いが多いようで。自分なら襲われない、そう思っているのかね。それとも、その妖怪が人を襲わないと解りきっている。



