東方無風伝 2
まぁなんにせよ、今まで魔理沙は生き長らえてきたんだ。これからもきっと大丈夫だろう。いざという時も、魔理沙は強いしな。
「やっぱり、この声はミスティアのだ」
「知り合いの妖怪か?」
「そうだぜ」と簡潔に言う魔理沙は振り返ようともしない。
伸びきった草を掻き分け進んでいれば、少しずつ例の声が大きくはっきりと聞こえてくるようになる。
不安定な声だと思っていたが、どうやら声の主は歌を歌っていたようだ。
大きく自由に、自分の好きなように歌う、歌うことを楽しん
でいる声だ。
「おやっ」
薄暗い森の中に、はっきりとした黄色い灯りが見えてきた。
「あれか?」
「あれだぜ」
あの灯りの色合いから、火でも焚いているのだろうか。
未だに木々に隠れてよく見えないが、その茂みを抜ければ、その景色のを拝むことが出来
る。
「おやっ」
赤い光を放つ提灯に、黄色く輝く裸電球。
木造建築の小さな小屋。
酒と美味い飯の匂い。
「こんなところに屋台が……?」
「ようミスティア。景気は上々か?」
「まあまあね。あなた達がお金を落として言ってくれば、それ以上ね」
俺の呟きは無視され魔理沙とミスティアと呼ばれた人物は会話を交わす。
テーブルの向こう側で、炭火で鰻(うなぎ)を焼いている人物こそが、妖怪、ミスティアだそうだ。
彼女の被る帽子の下からは、羽毛に覆われた鳥の耳が顔を出し、彼女の背中からは鳥のような翼が生えている。
「彼女は、鳥の妖怪か?」
「あら、初めてのお客さん?私は亭主のミスティアよ。お客さんの言う通り、夜雀よ。沢山食べていってね~」
「ああ、俺は風間と言う」
「ほれ、風間も座れ。落としたお詫びに私が奢るぜ」
「遠慮はしないぞ」
「しろ」「しないで良いわよ~」
魔理沙とミスティアが同時に言った。
「お薦めの品は何かな?」
「この八つ目鰻よ。美味しいわよ」
「ではそれを頼む」
「はぁ……私も頂くぜ」
わざとらしく溜め息を吐いた魔理沙だったが、やがては諦めたように席に着いた。



