東方無風伝 2
「こんな深い森の中に男を連れるとは、魔理沙もやるねぇ」
「五月蠅い死神。そんなんじゃないぜ」
ミスティアの屋台に居座っているのは俺達だけではなく、俺の隣に座る赤い髪の女性が魔理沙をからかう。
「魔理沙の知り合いか?」
「初めまして風間。あたいは小野塚小町。好きに呼んでくれ」
そう言って差し出してきた手
を、握り返さずに俺は言う。
「俺は正式に名乗っていないな。風間だ。よろしくな」
既に小町が知っている名前を
名乗ってから、握手を交わす。
「おや、何故名前を、とか聞かないのかい?」
「どうせ、ミスティアとの会話を聞いていただけだろう」
「そんな簡単に答えを当てられちゃつまらないね」
わざとらしく肩を竦める小町。
「気をつけろよ風間。そいつはなんて言ったって死神なんだから」
「死神。それは……小町が?」
「あっはっは。あたい以外に何処に死神がいるっていうんだい!」
小町が叫ぶと同時に、首筋にひやりとした感触。
小町が少し腕を動かせば、酷く冷たい『それ』は顎に触れ、顔の向きを少しばかり上向きに
する。
「おや、思ってたより随分と良い男じゃないか。これは益々、魔理沙と出来てるのかねぇ」
「だから、違うぜ。そいつは外来人で、色々と面倒見てただけだぜ」
「へぇ、あんた外来人かい。なら、あたいの仕事についても変な誤解をしているわけかい?」
「ふむ、俺の夢想する死神とやらについて詳しく教えてやりたいところだが、この鎌が邪魔で上手く話せん。聞きたいなら、離してもらえると有り難いな」
そう、先程から首筋に触れているのは、ありとあらゆるモノを簡単に切断出来る大きく歪な鎌。
俺の中の死神が持つそのものぴったりだな。
「ふん、肝の方もなかなか座っているようじゃないか。益々気に言った」
「おいおい小町。此処は酒の席だぜ? いい加減その物騒な物引っ提げたらどうだ?」
「言われなくても、そうするさ」
漸く首から離れる鎌。下手すれば俺の頭が体から離れているところだった。
「冗談にしては、少しばかりきつい物が有るな。だから『死神』は誤解されるんじゃないか」
「別に誤解されたって構わないさ。誤解を晴らそうだなんてこれっぽっちも思ってやしないしね」
ああそうかい。彼女にとって、あの鎌は本当にお遊びだったのだ。ただ驚かし、からかおうとしただけ。
全く、悪趣味にも程があるってもんだよ。



