東方無風伝 2
「生きたいから、生きたいんだろ」
今まで黙っていた魔理沙が、そう言った。
「生きたいのは、やりたいことがあるからだ。私だってまだ死にたくない。やりたいことが沢山あるからだ。大魔法遣いになるという夢だって叶えてない。私はその夢をほったらかして死にたくないぜ」
「何れ死ぬ。そうなったら大魔法遣いになろうとならないと、変わりは無い」
「有るぜ。心残りを残したまま死ぬなんて、それじゃ私の心は満たされない。そうか、生きるってのは自分の心を満たす行為だったんだな」
自分で言って、自分で納得する魔理沙。
魔理沙の言いたい事は、ばらばらになったパズルのようで、少しだけ抜けているところが有る。
「要は、『生きる』なんて人間の自己満足に過ぎないということだな」
「それは……違う」
「なにが?」
少し悩んだ魔理沙に、問い詰めるように言う。
「結局は人間のエゴではないのか? 生きる。死ぬ。それに違いなんてあるのか?」
「風間。それは人間のエゴじゃない。風間のエゴだ」
「……」
「風間は、人間を悪者に仕立て上げたいのか? さっきから風間の言葉は私にはそういう風に聞こえる」
「……」
「風間だって人間じゃないのか? どうして解らないんだ」
知るか。俺は、人間じゃないんだから。人間の考えだなんて解る筈が無い。
その言葉は喉で押し潰され、吐き出されることは無かった。
「はいはい。其処までにしておきな。どうせ、口論になるだけなんだから。そんな答えの無い問答をしたって意味は無いよ」
小町が助け船を出す。
それにはどれだけの助かる事か。
「そうだな。魔理沙、俺が言ったことは全て忘れてくれ。酒の席なんだ、楽しんで呑もう」
「どうにも腑に落ちないぜ。風間のそれは、はぐらかそうしているだけじゃないか。ただ逃げてるだけじゃないか」
「……そうだな、魔理沙の言う通り、俺ははぐらかそうとした。だが、それは逃避ではない。言いたくなかっただけだ」
「何を」
「……俺は、人間が好きだ。人間は自分達で努力し、進化し、発展した。人間の努力の成果だ。だから、人間が何をどうしようとも勝手だ。人間の持つ当然の権利だ。世界を滅ぼそうが、再生させようが、だ」
「なにを、言ってるんだ」
「何時何処で誰がどうして死のうが、どうでもいいってことだ」
魔理沙の眼が見開かれる。



