東方無風伝 2
混濁し、ゆらゆら揺れる頭の中。
どうにも意識は朦朧としている。酒を飲んだせいだろう。
兎にも角にも覚醒したんだから、起きなければ。
「おや、目が覚めたかい」
うっすらと目を開ければ、赤い髪の死神の姿が映る。
「小町か。俺は、どのくらい寝ていた」
「ほんの一、二時間ってところさ。しかしあんた、かなりの下戸だったんだね」
「あんな酒の飲み方、なってない。もっとゆっくり味わいたかったな。本当に俺はどうにかしていたようだ」
「全くだよ、あんたは」
痛む頭を押さえながら立ち上がる。辺りを見渡しても、眠る前と変わらない屋台の前で少し安心する。
「魔理沙は何処に?」
「あんたに呆れて、先に行っちまったよ。お陰あたいがあんたの面倒を見ることになった」
「そいつはすまなかった」
「あんた、幾らなんでも言い過ぎだ」
「嫌われたかな?」
「だろうねぇ。あんたは大馬鹿者だよ」
おどけて言ったが、小町の顔は真剣そのもの。
「まぁ、反省はしているさ」
「してなかったら殴るところだよ」
「ははっ」
目の前で握り拳を作りながら言う小町の様子に、つい笑ってしまった。
「で、魔理沙からの伝言だよ」
「おや、見捨てられたと思ってよ」
「先に白玉楼に言って、話をつけておくってさ。良かったねぇ、まだ完全に捨てられたってわけじゃなさそうだよ」
「うーん、これは挽回しておいた方が良いかな?」
「そりゃそうだろ。例えば、妖怪に絡まれてるところを助けるとか」
「そんな機会が有ったら、そうしよう」
両手を上に上げて、大きく伸びをする。
そうして身体をほぐす。
「小町、世話になったな」
「行くのかい?」
「ああ、目指すは白玉楼」
「気をつけて行っておいで。あたしから言えるのはそれだけだよ」
「それだけで、十分さ」
じゃあな、と手を振って歩き出す。
その行き先は、無論幽界、白玉楼である。
「あ、小町」
「なんだい」
「白玉楼まで、どうやって行けばいいんだ?」
「……あんだけ格好つけてそれかい」
そうして小町から道順を教えてもらって、再度歩み出そうとした時、小町が言った。
「あんたの言ったこと、あたしも間違っていないと思うよ。だけど、敵を作るだけだから、もう二度と言うんじゃないよ」
「肝に銘じるよ」
さぁ、では行くとしますか。
剣術を習う為に、いざ白玉楼へと。



