二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

夜を駆けていく

INDEX|11ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

 簡単な想像ならつくが、出会ったばかりのキッドが深入りしていいこととも思えない。
 キッドは詮索を諦める代わりに、必ずローと会うことを約束させた。
「……熱烈だなぁ」
「殺してほしいか?」
「遠慮するよ。そんなことになったらローさんを守れなくなる」
 本当にもう行くよ、と言って、ペンギンは坂の上へと歩き出していた。その背中を見送ってから、キッドも自分のアジトへ戻ることにした。

   *

 貴族の滞在先は丘の上で空き家となっていた屋敷だった。広い敷地の中庭にローの檻があり、その他の奴隷たちは裏庭で過ごすことになっている。
 劣悪な環境で苛酷な労働を強いられる彼らであっても、檻の中に入れられて見世物となるよりはマシだと考えていた。
 同じ奴隷という身分の中でも種族による差別は明確に存在していて、だからローはペンギンとシャチ以外の人間には決して心を開かなかった。
 彼らだけだったのだ。異形の者であるローを恐れず近寄ってきて、話しかけてもくれたのは。


「ただいま」
 ペンギンが無事に戻ってきた。
「おかえりー」
「……何もなかったか?」
「はい。下町までですが、ユースタスの奴を送り届けてきましたよ」
 中庭の隅に置かれた檻の前に三人が揃う。島に滞在するときの夜は、このスタイルが当たり前になっていた。
「そっか……」
 ペンギンもだが、キッドも無事であることにローはホッとした。もう会うこともないだろうから、自分たちのせいで何かがあってはと不安だったのだ。
 ところが。
「ローさん。アイツ、今夜も会いに来るそうですよ」
「えっ!? なんで、だ?」
 ローは驚いた。またしても心臓がドキドキと怪しく乱れ始めている。
「なんでって、おれが思うにですけど……。アイツもローさんのことがぁ……」
 ペンギンはやや言い難そうにしていた。顎に手をやってから、続きを促すようにシャチを振り返っている。
「えっ!? おれに言わせんの!?」
「ユースタス屋がなんだって言うんだ?」
 ローはキッドのこととなると目の色が変わるのだが、本人にその自覚はない。
 真剣な瞳に見つめられ、ペンギンを恨みがましく思いながらもシャチは口を開いた。
「アイツもローさんのことが、好き、もしくは好きになっているんじゃないかなぁ、と……」
 じっと耳を澄ませて聞いていたローの顔が、ボン、と赤くなった。それはもう面白いくらい一気に。
「な、なに言って……!」
 照れて真っ赤になった顔を掌で隠し、ローは信じられないというようにブルブルと首を振った。二人にからかわれているとしか思えなかったのだ。
 けれど、シャチは納得する感じに頷いていた。
「おれもあれは脈有りだと思ってたけど、また来るって向こうが言ったんだ?」
「ああ。ローさんは何も言わなかったって、本人も言ってたし」
「へえぇぇ〜! よかったじゃん、ローさん。今夜もユースタス屋に会えるよ」
「……! ま、また会える……」
 魅力的な響きに、ローの思考はそのことだけに囚われそうになった。が、すぐに目が覚めてしまう。
「ダ、ダメだって……! そりゃ嬉しいけど、貴族に見つかったりしたらユースタス屋の命が……」
 無くなってしまうかもしれない。それを想像した瞬間、身体が震えて肌も粟立っていた。
「落ち着いて、ローさん。大丈夫! 絶対そんなことにしないから!」
 小刻みに震えだしたローを見て、シャチは慌てて安心させるための声をかけた。貴族が簡単に奴隷の命を奪ってしまうことを、三人は嫌というほど知っている。
 そしてその暴力は奴隷に留まらず、なんら関係のない一般市民にまで及ぶのだ。
「問題があるとしたらそこなんですよね。……でも、大丈夫です。見つからないための手なら打てます」
 ペンギンの言葉に、ローはいくらか落ち着きを取り戻したものの、伸ばされたシャチの手を握る力は緩められなかった。
「幸い、その後ろは壁ですから死角が作れます。注意を向ける場所は屋敷の窓だけでしょう。会う時間も深夜だから貴族はもう寝ています。今日が見つからずに済んだのもそのためです」
 ローは背後を少しだけ振り返って、そこに屋敷の壁があることを確認した。窓もなく、完全な突き当たりとなっている。
「……本当に大丈夫か?」
「ユースタスが来ている時間は、おれとシャチで周囲を確認していますよ。なにかあったら……、そうですね。ローさんはアイツを檻の中に入れて毛布を被せて一緒に寝たふりをしてください」
「あ、それいい考え! 暗いから結構ごまかせるはずだよ」
 と、明るく賛同してしまってから、あれ? とシャチは首を捻った。
 万が一そんなことになったら、毛布の中で二人が密着しあうことになるのではないだろうか。
 ──お、おい! ペンギン!
 ──大丈夫だろう。ローさんはそっち方面、まったく知らないから。
 ──ローさんはそうでも、ユースタス屋はさぁ!
 ひそひそ、ボソボソと交わされるシャチとペンギンの会話に、ローは何事かと首を捻って口を挿んだ。
「どうしたんだ? 二人とも」
「いいえ! じゃあ、そういう手はずでいいですか?」
「ああ。……けど、ユースタス屋がおとなしく檻の中になんか入るかなぁ?」
 ローは他の奴隷たちが自分をどういう目で見ているかを知っていたから、人間のキッドが檻の中へ入りたがるとは思えなかった。
 ペンギンは腕を組み、しばし考えてから口を開いた。
「……そこはおれから話しておきます。……その、おれたちのことを少し話すことになってもいいですか?」
 躊躇いがちに聞いたのは、三人にとって苦い過去の記憶にも繋がるからだった。
 ローもシャチもしばらく黙り込み、そのうちシャチがじっと見上げだした。判断は任せるという合図に、ローも顔を上げて頷いておいた。
「構わない。内容もペンギンに任せる」
「……ありがとうございます」
 深々と頭を下げてくるペンギンに、ローは困ったような表情で笑ってみせた。
「けど、お前がそんなこと言うなんてなぁ。やっぱりペンギンもユースタス屋が気に入ったのか?」
 交渉役である彼はローよりもキッドと接する機会が多いから、ひょっとしたらもっといろんなことを知っているのかもしれない。
 素直に羨ましいと思っていると、それが表情に出たのか、ペンギンのほうがさらに困惑したように口をヘの字に曲げていた。
「あいにくですが、おれはローさんのためにしか働きませんから」
 不本意といった風にも取れる仏頂面に、ローはキョトンとしてしまった。シャチは檻にしがみつきながら笑いを堪えている。
「……ハハッ、ローさん、そりゃいくらなんでもペンギンが可哀想だよ……、ククッ……」
「えっ? なんでだ? ひどいこと言ったか? おれ」
 よく分からないがペンギンを傷つけたとしたら大事だ。ローは戸惑いながら二人を交互に眺めていた。
「大丈夫です。おれはちゃんとわかってますから。……ちょっと拗ねてみたくなっただけです」
 ペンギンは片手を上げて、もうその話はおしまいと切り上げた。

   *

「アンタがおれとばかり話すから、いらぬ誤解が生じたじゃないか」
「……はぁ? 知るか」
作品名:夜を駆けていく 作家名:ハルコ