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夜を駆けていく

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 やってきたペンギンにいきなり愚痴をこぼされたキッドは、その内容をきちんと把握した上で悪態をついた。
 勘ぐられたことは気持ちが悪いが、ローのやきもちから発生したものかと思えば、ギリギリ我慢もできる。
「今日は頼むからローさんとだけ話してくれよ。おれとシャチはすぐに離れるから」
「……なんか用事でもあるのか?」
 坂道を歩きながらキッドは聞いた。相変わらず検問を素通りしてしまう待遇には慣れないでいる。
「アンタの存在を貴族や衛兵に知られたくないんだ。おれたちは周囲の警戒に当たる」
 冗談ではないペンギンの雰囲気に、キッドも緩みがちになっていた気を引き締めた。
「もともと昨日だけのつもりだったからさ。さすがに何日も繰り返すと、怪しまれたりバレたりするかもしれないだろ? アンタに万が一のことがあったら……」
「おれがやられるとでも言うのか? いくら余所者でも許せるものとそうじゃねぇのがあるぜ?」
 スラムでは有名な悪として下町にもその名を馳せているキッドは、弱いと侮られることが我慢ならなかった。
 力と強さの二つで今日まで生き抜いてきたのだ。この二つだけは誰にも負けたくない。それぐらいの矜持がある。
 しかし、キッドの脅しに対して、ペンギンはどこまでも冷静だった。
「貴族を舐めないほうがいい。連中のバックには海軍と世界政府がいる。力だけでは太刀打ちできない武器も豊富に、というかほぼすべてを持っているんだ」
 『世界政府』という単語には、さすがのキッドも軽く瞠目してしまった。この世界そのものといってもいい組織の名前だ。直接的に関わることなど、海に出てからの話だと思っていた。
「世界政府を敵に回したら最後。永遠に追われ続けることになるぞ。外海の島から出て行くあてもないアンタに勝算はあるのか?」
 もっとも言われたくない指摘にキッドは苛立つが、図星ゆえに返す言葉がなかった。黙り込むキッドに、ペンギンも肩の力を抜いていた。
「おれたちはアンタを死なせたくない。そんなことになったらローさんが悲しむ。……だけじゃ済まないかもしれない。だから貴族にはバレないようにしたいんだ」
「……それで見張るのか」
「そういうことだ。見つかりそうなときは合図するから、そのときはアンタも檻の中に入ってくれないか?」
「はぁ?」
 言われた内容に今度は面食らって、キッドはペンギンの顔を疑わしげに眺めてしまった。
「そうしてもらえれば、アンタの姿は隠せるだろ。ローさんと一緒に寝たふりをしてくれよ。おれたちが適当にやり過ごすから」
「いや、ちょっと待て……」
 何かがおかしい。そう、決定的に変な部分がある。キッドは冷静に会話の中身を分析してから気がついた。
「……檻の中に入れるのかよ? 鍵は?」
 まさかペンギンたちが持っているというのか。もしそうならば、ローを連れて逃げることだって可能じゃないかと怪訝に思う。
「ああ……、それなんだけど」
 ペンギンは躊躇いがちに口を閉じたが、やがて意を決したのか、勢いよく顔を上げて言った。
「結論から先に言うけど、あの檻に鍵はついてない」
「なんだと?」
 キッドは目を剥き、その理由を待つ。
「……鍵をかける必要がないからさ。ローさんは……歩くことができない。どころか、立つことも無理なんだ」
 衝撃的すぎる告白に珍しく身動きが取れなかった。大人も裸足で逃げ出すほど恐れられている男が、ある事実を知っただけで棒立ちの状態になったのだ。
 キッドは強張った喉をなんとか震わせて聞いた。
「……なんでだ? 病気か?」
 ブルブルと、ペンギンは力なく首を横に振る。
「おれたちを守ってくれたんだよ。貴族の怒りを買って殺されそうになったおれとシャチを助けようとして、……代わりに罰を受けるような形になったんだ」
「……、……なんだ、それ……」
 ローの声が蘇ってくる。
 『ペンギンもシャチもすごくいい奴だから、おれのそばにいさせてくれって貴族に言ったんだよ』
 ──あの、バカ!
 キッドは腹の中に溜まっていくイライラを持て余して地面を蹴った。
「クソッタレ! 他に方法はなかったのかよ!」
「……そのときはまだみんな子供だったんだよ。ローさんはもともと反抗的だったこともあって、いつも貴族に殴られたりして傷だらけだった」
 ピクリ、と反応する。ローは奴隷である現状を受け入れていたわけではないのだ。
「そこへきて、おれらのことがあったから、貴族もすげぇ怒ってな。本当は殺されるところだったんだけど、それは政府の役人が止めてくれて」
「……へぇ」
 情に厚い奴でもいたのかと、キッドは一瞬そう思ったがやはり違っていた。
「止めたって言っても、ローさんがミンク族でちょっと珍しかったからって話でさ。商売になるってわかった途端、貴族も怒りを収めてたよ。あのときは単純に喜んだけど、今思うと悔しくてたまらない」
 深々と息を吐き出すペンギンの無念は、キッドにもよく分かるところだった。
「無知なのと、馬鹿なのと、力がないことは本当に腹立たしいよ。ローさんは両足に酷い怪我を負わされて歩けなくなった。おれらはそのときからずっと一緒にいる。あの人の足代わりになって、あの人のためになんでもするって決めたんだ」
 すっかり立ち話になってしまった場所は、貴族の屋敷から徒歩で数分の距離だ。道端に立ち尽くすペンギンの握られた拳が少し緩んでいた。
「ユースタス・キッド」
「なんだ?」
「ローさんがここにいる間、毎日会いに来てくれないか?」
「……いいのかよ?」
 ローの希望に沿うのではなかったか。キッドは少しからかうようなことを聞いた。ペンギンも苦笑している。
「昨日、アンタと話しているときのローさんは本当に楽しそうだった。あんな笑顔、怪我した後では見てないんだよ。……それじゃダメか?」
 自分たちの一番の理想はまた別にあるけれど、そんな当たり前のことすら望むのは間違っているだろうか。
 ペンギンの問いかけに、キッドは頷く以外にできることがなかった。


作品名:夜を駆けていく 作家名:ハルコ