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夜を駆けていく

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「東のほうが白んできた!」
「もうじき夜明けだな」
 甲板で航海を楽しんでいたキッドも、当然気付いていた変化に船内へ向けて足を動かしていた。
 船長室のベッドで寝ていたローを起こし、腕に抱えあげる。まだ眠たいのか、意識はあるようなないような状態だった。
「悪ぃな、眠いとこ」
「……ううん。朝か?」
「ああ、ほら、明るくなってきただろ」
 外へ出る扉を開けると同時に、キッドは言った。墨を流したようだった海の色が藍色へと変わりだしている。
 三色ほどに彩られた空を見てローの目も覚めたのか、顔を上げて東の方角を眺めていた。
「太陽が昇ってくる……」
「海賊になって初めて迎える朝だな」
 キッドの言葉に、キラーも他の仲間たちも、一斉に白んでいく空に注目していた。
「明るい。ユースタス屋の顔がよく見える」
「お前の顔もな」
 じっと見つめてくる視線を受けて、キッドは笑いながら同じことを言った。あ、という顔をしたローは、今更自分の姿が気になりだしたかのように、軽く髪を梳いたり、ゴシゴシと目元を擦ったりしていた。
「どこもおかしくなんかねぇよ」
「……でも……」
 気になるのだとローが言おうとしたところで、水平線が一際明るくなったのだ。
「あ……」
「おー……」
 一気に空が晴れて、景色にも鮮やかさが増した。顔を出した太陽に、キッドもローも目を離せなかった。
「夜明けだ」
 本当の意味での、夜明けだ。
 昨日までとは一つも同じでない今日。明日からはこれが当たり前になっていく。
「ユースタス屋」
「なんだ?」
「おれ……、朝が来てこんなに嬉しいの、初めてだ」
「ああ」
 長い夜を、それぞれ駆けてきた。夜明けを待望しながら現実に足掻き、くそったれと唾を吐いてきた日々は昨日で終わりなのだ。
「お前にな、本物の夜明けを見せたかったんだ。海賊になりたいっておれの夢は当然だけど、お前を救い出したいって思ったことも本当だ。その二つがあったから、おれは動くことができたんだよ」
「……ユースタス屋」
 打ち明けられた言葉に、今日だけで何度目になるかという涙があふれてくる。十年間、泣いたことなどなかったから、止め方が分からなくてローは困っていた。
「あっ、またローさんを泣かせて!」
「理由次第ではお前を殴るぞ」
「……やってみろよ」
 スラムの悪ガキを恐れないペンギンとのやりとりは、キッドの仲間たちを大いに驚かせていた。
「助太刀するぞ、キッド」
 刃物を煌かせたキラーが物騒なことを言う。
「あのな、別に喧嘩してるわけじゃねぇから!」
 血の気の多さはボス譲り。頼もしいけれど、同じ船の上にいる言わば共同体という間柄だから、つまらない諍いはするなと、キッドは牽制しておいた。
「わかった」
 キラーは頷き、すぐに獲物も鞘に収めている。
「……ちょうどいいから、話しておきたいことがあるんだ」
 シャチがローの涙を拭いている横で、ペンギンはキッドたちに向けて切り出した。
「なんだ?」
「勝手を言うのは百も承知で、お願いしたいことがある」
 ペンギンたちはいつも頼みごとをする立場なので、いささか心苦しい思いはあるけれど、このたった一つの願いだけはどうしても聞いてほしかった。
 キッドはペンギンの真剣な様子に続きを促した。
「おれたち、ドラム島という島へ行きたいんだ」
「ドラム島? どこにあるんだ、それは」
「グランドラインにある。そこには医療大国として有名な国があるんだ」
 医療、という単語にキッドもピンとくるものがあった。
「まさかトラファルガーを?」
「うん。医者に診せたいんだ。ローさんの足が治るかもしれないから」
 ペンギンの台詞に、誰よりも驚いたのは当事者のローだった。
「えっ? おれの足を……?」
 ビックリしすぎて涙も止まっていた。ローは驚いた表情のまま、ペンギンと目の前にいるシャチの二人を交互に見つめた。シャチは「ヘヘ」と、はにかんだように笑っていた。
「治るのか? 十年も前の怪我なんだろ?」
「わからない。ダメかもしれない。でも、医者が無理だって言うまで、おれらは諦めたくないんだ」
 医療大国のドラムで下される判断なら、それで諦めもつくだろうと、ペンギンたちは思ったのだ。
 ローが自力で歩けるようになれば、きっともっとたくさんの出会いや経験もできるようになる。それこそ、キッドとの接し方だって変えられるだろう。
「……ダメかな?」
「ダメなわけねぇだろ。ドラム島ってとこへ寄ればいいんだな? よし、じゃあ、グランドラインでの最初の目的はそれにしよう」
 ただ漠然と航海するよりは、何か目的があったほうが断然動きやすい。しかもそれがローのためになるかもしれないことなら、端から断る理由などないのだ。
「グランドラインへ入るには、リヴァースマウンテンを登らないとだね」
「ログポースも買おう。どこかでドラム島へ行くエターナルポースも欲しいな」
 シャチとペンギンはさすがに詳しく、キッドたちには意味不明な単語をポンポンと出して会話を進めている。
「お前ら、わかる言葉で喋れ」
「これ以上、略しようがないんだけど……。えーっと」
 ペンギンは航海初心者のキッドたちに、用語や単語の説明を始めていた。ローはキッドに抱えられたまま、正面にいるシャチへ話しかけた。
「二人ともそんなこと考えてたのか……」
「うん。おれらが話しちゃうと、ローさん気にするかなぁと思って黙ってたんだけど……。もう、船も手に入ったし、貴族との縁も切れたからね」
 望むことを望むようにやれるようになったから遠慮はしないことにした。シャチはそう言って笑い飛ばした。
「絶対歩けるようになるよ。なんだか、そんな気がするんだ」
 根拠も何もないんだけどねと言いながらも、シャチの顔には希望があふれている。
「うん。じゃあ、おれもそう思っておく」
 二人がずっと抱えてきた願いなのだ。ローがそれを否定してはいけない気がした。
「ドラム島まで長旅になるね」
「船旅には慣れてるじゃないか」
「そうだね。でも前と同じ船旅なのに、到着までが楽しみでならないんだ」
「ああ……、それはおれも同じだ」
 貴族の船に揺られて、島から島へ。上陸は苦痛の始まりでしかなく、できることなら永遠にたどり着かなければいいとさえ思っていた。
 数日前までは。
 ──……ユースタス屋と出会えてよかった。
 キッドは恥ずかしがっていたけれど、確かにこれは運命だったのではないかと、ローも思い始めていた。
 ギュウ、と腕に力を込めてキッドにしがみつく。
「どうした? 寒いか?」
「……ううん、むしろ逆」
 心も身体もポカポカで、こんな気分でいられることが嬉しくて、ローは邪魔になるだろうことも分かった上でいつまでもキッドにしがみついていた。
 キッドも何も言わずに、ローの気が済むまでやりたいようにやらせてくれた。
作品名:夜を駆けていく 作家名:ハルコ