踊りませんか次の駅まで
そして大惨事に至る。目を覚ましたら二人とも素っ裸で抱き合いながら寝ていた。
(オレは昔、彼女とですらこんなシチュエーションになったことはないぞ……)
先に起きてしまった栄口は頭を抱えた。水谷の身体の下にあった方の腕が痺れて自由が利かなかったが、脱いだ衣服を慌ててかき集めて身にまとい、水谷のアパートを出る前に見た時刻は午前三時だった。始発まで待つこともできず、たいした距離じゃないと腹をくくり歩き出す。
夜明け前の冷気がぼやけた頭を徐々にクリアにさせる。とんでもないことをした、栄口は革靴でアスファルトを踏みしめるたびそう思った。どうしてなんだろう、今までこんなことなかったのに。西広の幸せさに当てられ、うらやましいと思いはしたが、水谷とあんなことをしてしまう原因には繋がらないだろう。つらいとかしんどかったなら、以前これ以上の出来事があったからそれだからとも考えにくい。それともただ単に人肌恋しかっただけなのだろうか。
(ヒトハダか……)
確かにここずっと自分の周りでは全く色恋沙汰はなかったから、思い当たるのはそこしかない気がした。にしても水谷とキスして咥えられたあげく、出すのを手伝ってやるなんてとてもシラフじゃできない。思い返してみると今でもありありと感触が蘇る。かたい、やわらかい、さらさら、ごつごつ。あの時は水谷をふちどるすべてのものが近かった。
何度と一人問答を繰り返したが、家に着いてシャワーを浴びたら猛烈な眠気に襲われ、考えるのを止めた。目覚まし時計をセットし、あと何時間寝られるか逆算する間もなく眠ってしまった。
寝て起きたらすべて忘れられる性格ならよかったが、当然のことながら記憶は残っていた。
後悔しても後の祭りなのだけれど、せめてあの一杯をやめておけばこんなことにはならなかったのかもしれない。
酒の力というものの恐ろしさを改めて知った栄口勇人二十九歳、三十路まであと半年。
作品名:踊りませんか次の駅まで 作家名:さはら