三年後の答え合わせ
ばっと顔を上げた先では、柔らかい笑みを浮かべた臨也が扉に手をついて立っている。
「おはよ、帝人君。何でシーツに丸まってるの?」
「い、ざや…さん」
かつかつと踵を鳴らす音が部屋に響いて、気付けばベッドのすぐ傍らに臨也はいた。
居心地の悪さを感じ、帝人はそろそろとシーツから抜け出る。ぱさり、白いシーツがベッドに落ちた音がやけに大きく響いた。
顔の赤さを隠すように顔を俯けていたが、頬に手を添えられると半強制的に上げさせられた。
宝石のような臨也の瞳とかち合って、呼吸が一瞬止まる。
「あ、の…臨也、さん」
「んー、なぁに帝人君」
「これ、」
帝人がおずおずと左手を臨也の目の前に翳すと、臨也は「あぁ、」と確信のいったように呟く。
「俺からのプレゼントだよ」
「ぇ、」
「今日は誕生日だろう、十八歳おめでと。結婚出来る歳だね」
え、あ、そうか。今日は自分の誕生日だっけ。自分のことなのに忘れていた。
ぽかんとした表情で臨也を見つめる帝人の額に口付けて、その肢体をベッドに押し倒すとぎゅうぎゅうと抱きしめる。
帝人はというと、「え、」とか「臨也、さん?」とか混乱した声を漏らした。
何を言おう、口をもごもごと動かして開いては閉じる。
「その、臨也…さん?」
「ん?」
「男同士では結婚……出来ませんよ?」
漸く出た言葉はそれで、何を言っているのかと帝人は胸中で自分に落胆する。何を言っているんだ、本当に。
しかし臨也は呆れることも無く、至って真面目に返した。
「いや、俺だってそれくらい知ってるよ」
「そ…うですよ、ね……すみません」
「何で帝人君が謝るのさ」
くすくすと笑う臨也の腕の中で帝人はぐるぐると思考を続ける。
何だか馬鹿みたいだ、自分。勝手に赤くなって勝手に、勝手に。
そんな帝人の思考を知ってか知らないでか、臨也は語りかけるように言葉を紡いだ。
「俺はさ、たった一枚の紙切れの契約なんて興味ないんだ。そんなもので帝人君を縛りたくないし、それに」
一旦言葉を切って、臨也は帝人と視線を合わせる。何処か不安げな帝人を認めて、臨也は慈愛に満ちたそれで笑った。