植物系男子
話すと言っても、何を話せばいいのか。そう言えば、セルティは黙々とキーをタイプした。
『なんでもいいんだ。今自分が思っていることを、そのまま口にすればいい。ただ言いっぱなしはダメだ。大事なのは、相手の気持ちも理解すること』
果たして臨也相手にそれが出来るだろうか。甚だ疑問だが、必死になっているセルティを前に無下には出来なかった。
「…わかった。やれることはやってみる」
「その意気だよ!池袋の平和のためにね!」
闇医者が何を言うかと溜息をついて、俺は冷え切ったカップの中身を飲み干した。
プリンとコーヒーの礼を言うと立ち上がり、部屋を出ようとする。
が、とんとんと肩を叩かれた。振り返れば、セルティがPDAを見せてきた。
『言おうか迷っていたんだが…』
「何だよ」
珍しく躊躇う様子の彼女に、新羅も背後からPDAを覗き込んできた。
『静雄から変な臭いがする』
「…俺から?っつーか、臭いって」
そんな臭いなど微塵も感じない。新羅も不思議に思ったらしく、どういうことかと訊いていた。
『うまく言えないんだが…その、あまり良くない臭いだ』
「静雄、何かつけてる?」
「何もしてねーよ」
煙草の臭いならするかも知れないが、香水も何もつけていない。試しにバーテン服の袖口を嗅ぐが、特に異臭はしなかった。
セルティはうーんと唸るように首を傾げたあと、カタカタと打ち込む。
『私の気のせいかもしれない。気にしないでくれ』
「そうか?じゃあな」
別れの言葉を口にする新羅と手を振るセルティに見送られ、俺はパタリとドアを閉めた。